2025 年 46 巻 2 号 p. 98-106
SCERTSモデルは,社会コミュニケーション,情動調整,交流型支援の3領域を核とした,自閉スペクトラム症(ASD)に包括的にアプローチする教育モデルである.情動調整には,当事者自身が情動を調整する「自己調整」と,他者からの援助を受けながら調整する「相互調整」がある.今回,歯科治療に強い拒否を示したASD児において,薬物的行動調整後の情動調整により歯科診療の受容が改善した症例を経験した.本報告に際し患者と家族から書面で承諾を得た.
症例:7歳男児.ASD.発達年齢4歳.主訴:むし歯の治療.現症:う蝕10歯,身長120cm,体重21kg.
初診時に入室を拒否し待合室で口腔内診査を行った.全身麻酔下歯科治療を計画し,鎮静薬ミダゾラムの内服後に麻酔導入し,経過は良好であった.トレーニングに移行し,本人に処置内容の写真を提示した.「自己調整」として,本人が実施可能とした写真を「今日がんばること」と位置づけた.「相互調整」として,本人ができないと判断した写真で,術者が受け入れ可能と考え本人が了承したものを「これからがんばること」と位置づけた.歯科受容が改善し,1年後に通法下にて交換期乳歯の抜去を行いえた.
前投薬であるミダゾラムの投与方法を経口としたことにより,注射を拒否するASD児にかかるストレスを軽減できた.SCERTSモデルの情動調整は現実的脱感作を応用した技法であり,ASD児に対し有用であると考えられた.