2026 年 47 巻 1 号 p. 26-33
頭頸部癌の放射線治療における晩期有害事象として,開口障害や放射線性う蝕,放射線性顎骨壊死などが挙げられる.今回,頭頸部放射線治療後に多数歯う蝕を生じた24歳の最重度知的能力障害を伴う自閉スペクトラム症患者の歯科治療を経験したので報告する.
13歳時に上咽頭癌(stageⅢ)を発症し,外科的治療,化学療法と放射線治療を受け完全寛解した.放射線治療後,歯科受診はしておらず,う蝕治療を希望して受診した.初診時に口腔内診査を試みたが,拒否が著しく診査不可能であったため,静脈内鎮静法(IVS)下に口腔内診査を行い,その後2回の全身麻酔下集中歯科治療を行った.14本にう蝕第4度,16本にう蝕第2~3度を認めたが,う蝕第4度の抜歯については抜歯後の顎骨壊死が生じる危険性を考慮し,症状が出ていない現時点では抜歯せずにIVS下に定期管理を行い,急性炎症の徴候などを注視しながら経過観察することにした.
頭頸部放射線治療を行う際の歯科管理については開始時期が遅くなるほどDMF歯数の増加や顎骨壊死の発症率が上昇すると報告されているが,本症例は放射線治療から11年経過しており,その間,一度も歯科受診をしていなかった.頭頸部放射線治療開始前からの継続した歯科管理の重要性は多数報告されているが,本症例のような歯科受診に協力が得られにくい重度知的能力障害患者に対する有効な手立ては報告されておらず,今後検討していく必要がある.