日本ペインクリニック学会誌
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総説
感覚系における抑制系の意義と下行性疼痛制御系を再考する
小山 なつ
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2022 年 29 巻 4 号 p. 47-55

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抄録

神経系における「抑制機構」は,単に伝導・伝達されつつある信号の遮断や減弱を引き起こすとは限らない.感覚の情報処理における「側方抑制」は,感覚情報のコントラストを上げる仕組みに深く関わっている.カブトガニの複眼の研究で最初に報告され,ヒトでは網膜における視細胞と水平細胞の間の相反性シナプスによる側方抑制が,双極細胞の受容野を限局させる役割を果たしている.体性感覚系においても類似の抑制機構があり,どこが痛いのかをピンポイントに判別できることに結びつくとも考えられる.中脳中心灰白質(PAG)は単なる痛みの制御に関わる神経核ではなく,多彩な機能がある.PAGは脳の広汎な領域と双方向性の線維連絡があり,睡眠・覚醒や性行動にも関与し,循環系,呼吸器系,体温調節などの自律神経系を介する制御に関わる.背外側PAGが関与するノルアドレナリン神経系を介する下行性の疼痛制御系も,腹外側PAGが関与するセロトニン神経系を介する疼痛制御系も,抑制系だけでなく,促進系として機能する可能性がある.痛みの発現も下行性疼痛制御系も共に,侵害刺激に対抗するための生体防御機構の一部であり,脳内に何重にも存在するホメオスタシスを維持するための神経回路によって引き起こされると考えられる.

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© 2022 一般社団法人 日本ペインクリニック学会
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