本稿では,個々人の就業選択に,家計の保有不動産や金融資産がどのような影響を与えているのかを,世帯員の就業・非就業の属性とその所得の構成さらに世帯の貯蓄額等を捕捉している「全国消費実態調査」の個票データを利用して推定した.本分析によれば,金融資産の場合,リスク資産が世帯主の就業を有意に抑制することがわかった.本分析から一部の年次において貯蓄現在高における株式や債券といったリスク資産の比率が世帯主の就業・非就業に負の影響を与えるが,全体としては,その影響は限定的なものにとどまっていることが確認できた.また,世帯主の就業・非就業に実物資産が与える影響に関しては,就業を有意に抑制する結果が得られた.このことから,家計資産の蓄積が世帯主の非就業の選択を誘導しているという理論的可能性が考えられる.また,宅地単価についても,世帯主の就業に対して有意に負の効果があることが確認できた.