スポーツ社会学研究
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原著論文
オリンピック競技大会招致開催の経験がナショナルプライドに与える長期的影響
―社会調査データの二次分析による世代効果の検証を通じた一考察―
下窪 拓也
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2021 年 29 巻 1 号 p. 41-54

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抄録

 本研究は、メガスポーツイベントの招致開催がもたらす長期的な無形の影響の解明を目的とし、オリンピック競技大会の招致開催が、人々のナショナルプライドに与える影響を検証する。メガスポーツイベントの開催と開催国の人々が持つナショナルプライドとの関連はこれまでにも議論されてきたが、先行研究では、開催時期の時代背景による影響は等閑視されてきた。
 時代的背景から、1964 年東京オリンピックと1972 年札幌オリンピックの開催は、戦後の復興と国際社会への復帰という意味合いを強く持つため、日本人のナショナルプライドに強い影響を与えたことが想定される。本研究では、この東京オリンピック経験世代と札幌オリンピック経験世代の世代効果に着目して、大会の開催がナショナルプライドに与える長期的な影響を分析する。分析では、社会調査の二次データを用いて、東京オリンピック経験世代と札幌オリンピック経験世代の世代効果が、スポーツに関するナショナルプライド(スポーツプライド)と一般的なナショナルプライド(ジェネラルプライド)に与える影響を検証した。
 分析の結果は、仮説とは反して、世代効果はスポーツプライドには統計的に有意な負の影響を示し、ジェネラルプライドに対しては統計的に有意な関連を示さないことを明らかにした。オリンピック競技大会の商業主義化に伴いナショナルな表象が薄れたことで、かつての国威発揚の意味合いを強く持つ東京オリンピックや札幌オリンピックを経験した世代は、昨今のスポーツに対してもはや国への誇りを重ねなくなったのだと考えらえる。あるいは、先行研究では、1990 年代以降の日本社会の不安の蔓延に伴い、若者のスポーツプライドが高まっていることが示唆されていることから、相対的に東京オリンピックや札幌オリンピックを経験した世代のスポーツプライドが低く観測されている可能性も考えられる。最後に、本研究の限界を議論した。

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