2020 年 69 巻 4 号 p. 338-347
喫煙は最大の健康阻害要因として,WHOのたばこ規制枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control; WHO FCTC)に基づき各国のたばこ対策が実施されている.わが国では,健康日本21(第二次)およびがん対策推進基本計画において喫煙率の減少等に関する目標が設定され,受動喫煙防止対策の法制化が進んでいる.
喫煙による健康影響は知られているところであり,歯・口腔にも様々な症状や疾患が発現する.なかでも,口腔がんと歯周病は喫煙との科学的な因果関係が確立している.また,たばこの使用は歯周治療をはじめとした歯科治療に影響を及ぼすとともに,歯科での禁煙支援の有効性が報告されていることから,歯科におけるたばこ対策は重要な役割をもつ.歯科の特徴として,口腔内は自分自身で直接見ることができるため,禁煙の動機づけが行いやすい.他にも,歯科疾患の有病率が高いためあらゆる年齢層の人々を対象にできること,定期歯科健診等の際に繰り返し指導や支援ができること,喫煙による全身疾患の症状がまだ現われていない早期の段階で介入ができることがあげられ,歯科は禁煙支援に適している.
FCTC第14条により,たばこ規制・対策の一環として禁煙支援・治療に取組むことが求められている.併せて,禁煙支援・治療の方策のひとつに,保健医療システムに短時間の禁煙アドバイスを組み込むことが提示されている.日本は健康保険による禁煙治療が進む一方で,喫煙率の下げ止まりや新しい形態のたばこが流行しつつある.こうした状況で喫煙率の低減を達成するためには,歯科においても歯科医療従事者を中心とした禁煙介入の強化が必要であると考える.特に,喫煙対策は非感染性疾患と歯科疾患に共通するリスクに対するアプローチとなることから,歯科で禁煙支援を推進する意義は大きい.
本稿では,喫煙による歯科口腔領域への影響と歯科における禁煙支援の有効性について内外の研究動向を概説する.また,歯科診療所での継続的な禁煙介入の実践を通して得られた筆者らの研究知見に基づき,歯科での禁煙支援の必要性について考察し,歯科で実施するたばこ対策の促進に向けた課題を示す.