1990 年 39 巻 8 号 p. 542-547
各種胆汁酸塩は臨床的にも関心を集めているものであるが, それぞれ単独系の物性が今なお完全に知られているわけではなく, ましてや混合系についての基礎的な研究は少ない。その一つとして, 胆汁酸塩の分子構造において, 7位のOH基がα位かβ位かの違いにより, その界面化学的挙動には大きな相違がある。そこで次の胆汁酸塩の組み合わせに対して混合ミセルの形成の研究を行った。 (1) 遊離胆汁酸塩同士の混合系, ケノデオキシコール酸ナトリウム (NaCDC) 及びウルソデオキシコール酸ナトリウム (NaUDC), ホウ酸緩衝液pH9.94, 30℃, (2) タウリン抱合型胆汁酸塩同士の混合系, タウロケノデオキシコール酸ナトリウム (NaTCDC) 及びタウロウルソデオキシコール酸ナトリウム (NaTUDC) の胆汁酸塩混合物, 生理食塩水中, 37℃。
研究には表面張力法とESR測定法及び可溶化法 (被可溶化物としてモノオレインを用いた) を用いて行った。
それらの結果から, cmc-モル分率曲線において, NaCDCとNaUDCの混合系は理想混合からのわずかな正のずれを示したが, NaTCDC-NaTUDC系は見かけ上理想混合を示した。ESRのデータをみると, CDCとUDCにおいて1 : 1の混合比が他の混合比よりも混合ミセルのより好都合の構造をもたらすことを示唆している。このことはCDCとUDCが水中で会合単位としてカップルになった二量体を形成していることを意味している。