日本公衆衛生雑誌
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原著
介護予防事業に参加した地域高齢者における生活空間(life-space)と点数化評価の妥当性の検討
原田 和宏島田 裕之Patricia SAWYER浅川 康吉二瓶 健司金谷 さとみ古名 丈人石崎 達郎安村 誠司
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2010 年 57 巻 7 号 p. 526-537

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抄録

目的 高齢者の活動能力の低下は日頃の行動範囲の狭小化に続いて起こるとされ,国内外で生活空間の評価とその関連要因の検討が始まっている。生活空間は「日常の活動で一定期間に移動した範囲」と定義され,評価には Life-space assessment(LSA)の点数化評価が用いられることが多いが,日本人ではデータ分布や尺度としての特性は明らかにされていない。本研究は介護保険制度の予防事業に参加した地域高齢者を対象に,日本語版 LSA により最大到達範囲を把握し,移動の頻度や自立状況を積算する評価法について基準関連妥当性および構成概念妥当性を検討することが目的である。
方法 対象は2007年11月から2008年 2 月の間に介護予防事業もしくは介護予防サービスを利用した地域高齢者で認知機能低下がない者2,459人であった。日本語版 LSA は原著者への翻訳許可,順•逆翻訳の手続きを経て作成した。分析は介護保険制度上の特定高齢者,要支援 1 及び 2 で歩行状態が自立とみなせる者2,147人を選定して行った(男性29.5%,平均年齢79.4歳)。生活空間に関しては,過去 4 週間の最大到達範囲を求めた。次に,LSA の点数化アルゴリズムに従って算出した 0~120点の LSA 得点について記述統計(平均値,標準偏差,中央値,最小値,最大値,歪度,尖度),総合的移動能力尺度を外的基準とした基準関連妥当性,及び年齢,性別,Timed up and go test (TUG), instrumental activities of daily living (IADL),抑うつ気分,健康度自己評価との関係性に基づく構成概念妥当性を検討した。
結果 本研究では最大到達範囲を生活空間レベル 5「町外」とする者の割合は64.1%であった。「生活空間の制限あり」とみなしたレベル 3「自宅近隣」以下の存在割合は12.6%であった。LSA 得点の平均値は51.4点,標準偏差は25.2点で散布度が大きい特徴を示し,分布の形状は正規分布から極度には逸脱していなかった。総合的移動能力尺度との関係は,地域での移動能力が高い者ほど LSA 得点が高くなる傾向を示し,両者の相関は0.539であった(P<0.01)。関連要因との相関では,年齢が−0.296, TUGが−0.387, IADLが0.533と先行研究の知見と同様の関係性が得られ,いずれも 1%以下の危険率で有意であった。要因別にみた平均値についても,理論的に整合する LSA 得点への影響を認め,性別では男性が54.3点で女性の50.2点より高く,抑うつ気分では「いつも感じる者」は43.1点で「それ以外の者」の51.7点より低く,健康度自己評価では「健康でない者」は47.7点で「健康である者」の53.2点より低く,それらの差は有意であった(P<0.01)。
結論 本研究では,介護保険制度で予防的支援を必要とする地域高齢者を対象とした生活空間の評価について,LSA による最大到達範囲は測定値の範囲が小さく分布が偏るが,LSA 得点は幅広い散布度を有し個人差を反映する特徴をもつと共に,基準関連(併存的)妥当性と構成概念妥当性を支持する傍証が得られた。LSA 得点は介護予防を必要とする日本人高齢者に対する生活空間の測定尺度として有用であることが示唆された。

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© 2010 日本公衆衛生学会
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