2017 年 23 巻 p. 34-52
本稿の目的は,現代アフリカにおける地域社会と野生動物のかかわりに対して,グローバル社会が与える影響を明らかにし,今後の人と動物のかかわりの将来像を展望することである。分析においては,アフリカの生態系の象徴であるアフリカゾウに着目し,ゾウと深くかかわってきた地域社会の事例として,東アフリカ・タンザニアのセレンゲティ国立公園に隣接して生活するイコマ社会をとりあげる。そして,これら両者に,グローバル社会が与えた影響を分析した。
イコマ社会では,狩猟活動が動物とのかかわりの基盤を形成していたが,1980年代にアフリカゾウの密猟が激しくなり,それに連動して国際的な保護政策が強化されるようになると,イコマの狩猟活動は違法化され衰退していった。そしてそれに伴って,イコマ社会における多様な動物種との「かかわりの全体性」は希薄化していた。一方で,2000年代以降はゾウが引き起こす農作物被害が拡大しており,地域の生活を脅かしている。つまり,グローバルな価値である稀少種の保護や生態系サービスの保全を政府・国際NGO・観光企業が推進することによって,狩猟文化や獣肉食といった,イコマ社会における動物へのローカルな価値は否定され剝奪されており,そのうえさらに,ゾウとの共生に伴うリスク(被害)を被っていた。
このような状況を,動物とかかわりの深い3つの地域の狩猟採集民社会と比較した結果,土地の権利および動物とのかかわりを自己決定する権利を求めて,イコマ社会で住民運動が活発化する可能性が展望された。