抄録
気候変動への適応のため,農業生産に対する影響予測や品種改良等の技術的適応策が検討されているが,今後の政策的検討に向け,政策分析の第一歩として,作付から収穫,流通,そして消費までを見据えた,ステークホルダー分析の必要性を本稿では提案する.
本調査は,埼玉県内二地域を対象に,気候変動適応策に関する意向を聞き取り,ステークホルダー分析を実施した.分析の結果,現在の生産者は,輸入農作物との競争や後継者問題など喫緊の課題が存在する中,長期的な気候変動という数十年先のリスクへの対応は優先順位が低いだけでなく,すでに市場の動向や微気候の変化に合わせて作付作物を適応してきた実績があることから,気候変動への危機感が低いため,適応に向けて,未来の農業シナリオを想定した新たな政策プロセスの必要性が明らかになった.