2015 年 71 巻 6 号 p. II_35-II_42
本研究は,中国の退耕還林政策を事例として,生態系サービス支払(PES)におけるスリップ効果(PESへの参加面積の増加により新たな農地開墾が生じてしまう現象)の存在について統計的に検証した.同政策が開始された2000年から2012年までの期間について,農業生産の比較的盛んな24省・直轄市・自治区のパネルデータを構築し,退耕還林政策の参加面積や経済的・地理的諸要因が,新規開墾面積に与える影響を定量的に分析した.分析に際しては省レベル・年レベルの観測されない異質性を考慮するため,Pooled OLSに加え固定効果モデルにより推計をおこなった.
条件の異なる複数のモデルで分析した結果,退耕還林政策の参加面積は新規開墾面積に対して一貫して正で有意な影響を与えており,スリップ効果の存在が示された.ただし,海外の先行研究と比較してもスリップ効果は小さく,その影響は限定的であることが示された.とはいえスリップ効果による新規開墾面積は全体の約5%を占めると考えられ,政策の運用に際しては同効果の抑制に十分留意する必要があるといえる.