2019 年 75 巻 5 号 p. I_411-I_417
本研究では,タイ国中央部に位置するスパンブリ県を対象として,サトウキビ生産要素に着目した農業統計分析と被害額推計,地下水位観測,サトウキビ生長モデルによる生産ポテンシャル評価を行った.サトウキビ単収と4か月積算降水量の相関分析の結果から,単収は雨季の始まり5-8月と雨季の終わり10-1月積算降水量との間に正の相関を示した.被害額は2005年と2006年で大きく,2005年の被害は前年の2004年の渇水,2006年の被害は前年の2005年9月の大雨による湛水の影響であると考えられた.比抵抗マップから推定した砂質土壌帯に観測井を設置し,計測した地下水位変動データから持続的に利用可能な浅層地下水資源量は2017/2018期において約400mmと見積もられた.サトウキビ生長モデルを用いて単収の増加率を評価した結果,浅層地下水を400mm灌漑した際の平均単収増加率は32.8%となった.渇水年においては利用可能水量はより減少するものと考えられるが,年降水量800mm程度の渇水年を想定した場合に,200mmの地下水灌漑により19%の単収増加が期待できることが明らかとなった.