2021 年 77 巻 5 号 p. I_115-I_123
熊本県大津町真木地区では,2016年4月に発生した熊本地震後に矢護川が断流し,水田面積が減少した.さらに,2018年2月に下山の湧水が枯渇したことで冬季湛水面積が減少した.本研究では,地下水涵養に重要な水田農業と冬季湛水を再び営むことができるように,断流と枯渇の原因を明らかにすることを目的として,矢護川上流に2012年に建設された不透過型砂防ダムの状況と降水量や地下水位等の水文データを評価した.砂防ダムでは,水抜き暗渠が閉塞していたことから,下流への河川流出量が減少している可能性が示唆された.地下水位では,地震後の山体地下水の排水による急激な上昇が認められ,この排水に伴い上流における基底流出の減少が示唆された.そのため,砂防ダムと地震が河川断流の主な要因と考えられた.湧水は,排水された山体地下水と雨季に回復する矢護川の伏流水により地震後も維持されていた.しかし,伏流水を補完していた山体地下水は徐々に流下したことで,湧水は地震から1年以上経って枯渇したと考えられた.