土木学会論文集G(環境)
Online ISSN : 2185-6648
ISSN-L : 2185-6648
77 巻, 5 号
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地球環境研究論文集 第29巻
  • 坪野 考樹, 津旨 大輔, 木原 直人, 大庭 雅道
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_1-I_8
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     本研究では,JCOPE2M再解析とROMSの結果から再現期間数年から数十年の流速値の再現レベルを推定する方法を検討した.まず,JCOPE2Mについて自己組織化マップを用いてパターン抽出し,そのパターン抽出された期間のROMSの結果を用いて流速の鉛直分布を表す主成分のスコアを仮定する確率分布の統計量を最尤法で計算した.次に,JCOPE2M再解析期間の各時刻のパターンの統計量を用いて乱数を発生させて27年間分の流速を作成し,27年分の年最大流速を設定した.最後に,この最大流速を用いて極値統計分布の統計量を最尤法で計算した.SOM,確率密度関数,極値分布についてさまざまな条件を設定して,計20ケースの極値統計分布の統計量を計算した.ROMS得られた年最大流速結果を全20ケースの極値統計分布に与えて対数尤度を評価した.この結果より,JCOPE2MとROMSの結果から流速の再現レベルを推定するには,SOMで6×6のパターン,流速の確率分布はt分布,ガンベル極値分布の組み合わせたケースが最もよいことが示された.

  • 武藤 圭誠, 広城 吉成
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_9-I_15
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     瑞梅寺川流域では豊かな自然環境と貴重な生態系を有している.一方で,都市開発や水田の減少に伴い地下水涵養量の減少が懸念されている.このような水循環系に対する問題の解決策としてウォーターバンキング(以下WB)が注目されている.

     本研究では同流域を対象とした水収支解析を行い,WBの効果を検証した.その結果,荒地と水田にWBを行った場合の差が明らかになった他,WBにより地下水涵養量が約7%増加,表面流出量が約15.5%減少,全余剰表流水を7%地下に貯留できることが確認された.また,地下水淡水位はWB直後に上昇し,地下水塩水位に関してはWBを長期間実施するほど地下水の塩水化が低減した.さらに,1差分格子あたりでは周辺の表面流出率が一様に低く,流出係数が大きい土地利用ほどWBによる地下水位改善が効果的であることが判明した.

  • Haichao LI, Hiroshi ISHIDAIRA, Kazuyoshi SOUMA, Jun MAGOME
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_17-I_25
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     In recent years, urban floods have become a more serious problem in China. To reduce flood damage in urban areas, the Chinese government decided to build sponge cities. Assessment of the flood control capacity of sponge cities is important, although several studies have already shown that they can effective control floods. However, the responsiveness of sponge cities to future climate change and increased urbanization has not yet been well-studied. Therefore, we explored the impact of climate change and urbanization on the flood peaks and volumes of sponge cities. Future precipitation projections were obtained from three bias-corrected general circulation models (GCMs) of Coupled Model Intercomparison Project 5 (CMIP5), to derive two representative concentration pathways (RCPs 4.5 and 8.5) for projecting precipitation in the periods 2040–2059 and 2080–2099. The historical expansion of the urban area was quantified using high-resolution land use data from GLOBELAND 30; data on the planned land use changes up to 2035 were obtained from the local authority. We also evaluated the effects of 100% urbanization. A storm water management model (SWMM) was used to quantify the peak water flow and volume reduction rates in a sponge city subjected to changes in the climate and extent of urbanization. We found that the effect of climate change in terms of the ability of the city to reduce flood peaks ranged from 26.2-30.8%, and that the effects of urbanization under extreme precipitation varied by 23.6-30.3%. The flood mitigation capacity is 28.9-31.1%, and the effect of urbanization 29.4-30.8%. Though both of urbanization and climate change will affect flood control capacity, sponge city construction would effectively work for reduction of flood peak and volume under future climate and urbanization in the target area.

  • 山田 利紀, 藤田 凌, 田上 雅浩, 山崎 大, 平林 由希子
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_27-I_32
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     近年, 気候変動に伴う洪水リスクの将来予測が様々な研究において行われているが, それらには不確実性が存在する. 既往研究では気候モデルやシナリオの違いによる洪水リスクのばらつきが指摘されているが, その他にモデルによる不確実性の評価も必要である. 本研究では河川モデルCaMa-Floodの感度実験を行い, 近年の衛星観測や数値計算法の発展による全球河川氾濫モデルの更新や標高データの改善が世界の洪水予測や全球の洪水リスクの推定にどの程度影響するか調査した. その結果, 衛星観測の誤差に起因する標高データの違いが浸水分布に大きく影響することが判明した. また, モデルの物理過程では, 洪水流が河川高水敷を一時的に流れる過程が最も浸水面積の違いに影響を与え, 多いところでは約5.5%の違いを示した. また, 全球の洪水に暴露される人口は, モデルの物理過程や入力データの違いで最大14%異なることも判明した.

  • 柳原 駿太, 山本 道, 風間 聡, 峠 嘉哉, Yikai CHAI , 多田 毅
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_33-I_42
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
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     日本全域を対象に,田んぼダムによる潜在的な洪水被害軽減効果を推定した.二次元不定流モデルを用いて洪水氾濫による浸水深を算出した.また,浸水した土地の資産額に浸水深に応じた被害率を乗じることで洪水被害額を算出した.広域に適用可能な簡易的田んぼダムモデルを日本全域に適用して,田んぼダムによる雨水貯留機能を洪水氾濫解析に反映した.日本全域の水田が洪水緩和機能を果たした場合,洪水被害額は6.5%減少すると推定された.田んぼダムによる洪水被害額軽減率は,富山県,佐賀県,秋田県,山形県,新潟県の順に高いと推定された.田んぼダムによる洪水被害額軽減率は,先行研究において推定された土地利用規制,ピロティ建築,治水水準の向上による洪水被害額軽減率よりも低い結果となった.

  • 藤村 和正, 井芹 慶彦, 柳川 亜季
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_43-I_49
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
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     冬期の降水データが不足がちな積雪地域の4つのダム流域において,日単位の降水量と気温データから解析できる山地流域を対象とした水循環モデルについて,年水収支量と流況曲線の形状を確認しつつ降水量と流出量の補正を行い,モデルパラメータをキャリブレーションすることで解析を行った.そして,現実的な将来流出予測のため,GCM気候値にMIROC5の最も昇温が高いRCP8.5排出シナリオを利用し,既に実測値が存在する近い将来(2006年~2020年)の水循環解析を行い,季節単位の流出予測を行った.主な結果は次の通りである.①水循環解析で得たハイドログラフの相対誤差は凡そ30%代前半であり,冬期の降水データが十分に得られない流域において一定の再現性が得られた.②近い将来の流出予測において,実測値を定性的に予測できたのは4流域16季節中,12季節であった.③流出量の予測値が実測値をほぼ表したのは,春期(3月-5月)の流量減少と,秋期(9月-11月)の流量増加であった.

  • 梅田 信, 久米 祐介
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_51-I_59
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     近年,気候変動により,各方面で様々な影響が顕在化しつつある.本研究では,全国の多数の河川を対象とし,近年5年から25年間ほどで観測された水温の変化とその最寄りの気象観測点の気温の変化を調べた.生データに対し有限フーリエ級数で表した季節変動成分を抽出した.その後,観測値と季節変動成分の偏差を求め,その偏差に対して傾向の有無,大きさを調べた.その結果,水温と気温変化は相関係数がR=0.37となり,弱い正の相関があった.また長期的な水温変化の傾向成分を推定することに対して,観測頻度と観測期間の影響について,日データを統計的に処理して検討を行なった.その結果,1日毎の水温測定があれば10年弱の観測期間で長期変化傾向をある程度の精度で検出できるのに対して,1ヶ月間隔の観測では数十年以上の観測期間が必要であることが推測された.

  • Charles John GUNAY, Yusei HASHIMOTO, Katsuhide YOKOYAMA, Hiroshi SAKAI ...
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_61-I_68
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     Forests generally provide protection against sediment-related disasters, as they reduce the impact of raindrops that erodes the topsoil during extreme rainfall events. However, under poor and ineffective management, they become susceptible to more erosive raindrops which develop and grow in the tree canopy layer before falling to the ground. In this study, preliminary field investigation were carried out to evaluate the differences in geophysical properties and responses to raindrop-impact-induced erosion among fenced Government-managed forest (TMGf), unfenced Government-managed forest (TMG), and private forest (Pri) in the upstream catchment of Ogouchi Dam. Based on the gathered data, an integrated analysis, which approximates the kinetic energy caused by smaller-sized raindrops directly falling from open sky and the larger-sized raindrops developed in the tree canopy layer, was applied. The total erodibility coefficient CTEr for each forest group was determined by summing up the standardized values from these two, minus the probable effect of forest floor protection. Finally, the annual sediment yield for TMGf, TMG, and Pri were calculated by associating their respective CTEr to MUSLE land cover and management factor CMUSLE in SWAT. The outputs of the simulation reliably demonstrated the difference in sediment quantity between poorly- and effectively-managed forest in Ogouchi Dam watershed.

  • 原島 康輔, 酒井 宏治, 小泉 明, 酒井 健治, 黒木 直也
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_69-I_76
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     現在,日本の水道普及率は98%を超え,安全で美味しい水の供給が求められている.このような中,貯水池の水質の管理は極めて重要な課題である.特に森林の水源涵養機能は,水資源の貯留,洪水の緩和,水質の浄化など様々な機能を有し,雨水の川への流出量の平準化やおいしい水の供給に大きく貢献している.東京都水道局は水道水源林の機能向上のために荒廃した民有林を購入し,整備することで小河内貯水池の水源管理を行っている.だが,小河内貯水池の森林面積は240km2に及び,その整備について流域特性に基づいた整備及び購入の優先度を検討する必要がある.そこで本研究では,小河内貯水池集水域の森林の整備購入優先度について,管理区分,樹種,林齢,植生などの観点から検討した.その結果,貯水池中央部付近の流域が優先度が高いことが分かった.

  • 川越 清樹, 丸田 大空
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_77-I_84
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴う降水量の増加により,洪水氾濫のリスクが高まっている.壊滅的な被害を回避するため,河道整備のみに依存せずに流域全体で治水に取り組むことで水害を軽減する対策も推進されている.対策を計画する上で,河道外で貯水できる可能量も推計して,氾濫を抑制させることが必要である.

     以上の必要性に応じて,本研究では,流域治水の計画に効用を与えることのできる国土規模の河道外に内在する貯水ポテンシャルマップを開発した.内在する河道外の資源として,水田貯留,都市公園貯留,学校貯留を検討した.貯水ポテンシャルマップの開発の中で,各貯留種目の各貯水可能量と国土規模の地域特性を明らかにした.

  • Naing Cho Zin Zin, So KAZAMA, Terumichi HAGIWARA
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_85-I_91
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     The hydrogeomorphic response has tremendous impact on future trend of rivers, sediment transport and bed characteristics. Analyzing the river morphological changes of extreme flow and normal flow is important for all rivers. Extreme event flows of rivers exert sustainable forces, altering the bed and banks of the rivers. The main purpose of this study is to investigate how the riverbed and banks have different effects in high and seasonal flows to understand river management. In August 2017, the Babame riverbank was hugely damaged by the high flow as the result of heavy rainfall. Moreover, its seasonal flood ensues throughout the year because of the humid climate condition. Most of the morphological studies focus on the peak flow and extreme events of the rivers, occasionally neglecting seasonal flow of rivers. Long-term seasonal flow and peak flow analyses in various parameters can explain the effects of the morphological changes. The flow rate of a river is one of the most important factors that can change river morphology and erosion process. Peak flow event is one major cause of the massive amount of bank erosion and deposition. This study applies tow-dimensional hydrodynamic models that analyze flow, sediment transport and morphological change namely Nays2DH. The stimulated results present actual phenomena of morphological changes. By applying two-dimensional model, the simulation results indicate the erosion and deposition processes affected by peak flows and seasonal flows.

  • 新井 涼允, 豊田 康嗣, 佐藤 隆宏, 大庭 雅道, 風間 聡
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_93-I_103
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     河川構造物の設計等に利用される大規模洪水量は流出解析モデルに降雨波形を入力することにより算定される.本研究では大規模洪水量を算定するための降雨波形として,観測雨量に基づく降雨波形とd4PDFの過去実験に基づく降雨波形を提案した.観測雨量および過去実験に基づく降雨波形では,年最大雨量の再現期間に基づく降雨量の設定が可能である.ケーススタディーとして,庄川水系の2つの流域において再現期間1,000年の降雨波形を入力値とした流出解析を実施した.観測雨量および過去実験に基づく降雨波形を入力値として各々計算された洪水比流量を,下流部において観測された既往最大比流量と比較した結果,前者は既往最大比流量を超過した一方後者は超過しなかった.後者の結果は,過去実験の年最大雨量が対象流域において過小評価したことに起因した.

  • 梅田 信, 小林 明大, 長崎 勝康
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_105-I_113
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     ヤマトシジミの成長量と水温の関係についての既往研究から,水域によって水温と成長量の関係に差が存在する可能性が示唆されていた.本研究では,過去の7年間で実施した十三湖におけるヤマトシジミの現場飼育実験の結果を用いて,十三湖におけるヤマトシジミの成長量と水温の関係について分析した.測定した水温に基づいて有効積算水温を算出し,有効積算水温とヤマトシジミの成長量との相関分析を行った.その結果,有効積算水温とヤマトシジミの成長量の相関係数は最大で約0.27となり,水温と成長量に弱い相関があることが分かった.また,十三湖においてヤマトシジミが成長を始める水温は13℃付近に存在すること,および高水温期である8月より前の期間の水温が夏季の全成長量への寄与が大きい可能性が示唆される結果が得られた.

  • 天野 弘基, 市川 勉, 中川 啓
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_115-I_123
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     熊本県大津町真木地区では,2016年4月に発生した熊本地震後に矢護川が断流し,水田面積が減少した.さらに,2018年2月に下山の湧水が枯渇したことで冬季湛水面積が減少した.本研究では,地下水涵養に重要な水田農業と冬季湛水を再び営むことができるように,断流と枯渇の原因を明らかにすることを目的として,矢護川上流に2012年に建設された不透過型砂防ダムの状況と降水量や地下水位等の水文データを評価した.砂防ダムでは,水抜き暗渠が閉塞していたことから,下流への河川流出量が減少している可能性が示唆された.地下水位では,地震後の山体地下水の排水による急激な上昇が認められ,この排水に伴い上流における基底流出の減少が示唆された.そのため,砂防ダムと地震が河川断流の主な要因と考えられた.湧水は,排水された山体地下水と雨季に回復する矢護川の伏流水により地震後も維持されていた.しかし,伏流水を補完していた山体地下水は徐々に流下したことで,湧水は地震から1年以上経って枯渇したと考えられた.

  • 大久保 創理, 久松 力人, 堀江 啓
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_125-I_131
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     損害保険会社にとって自社が保有する洪水リスクの定量的な評価は重要な課題であるが,特定の国・地域では情報や知見が十分に蓄積されておらず,自然災害モデルが存在しないという課題がある.

     本研究では損害保険会社が日本や欧米等における自然災害リスクの分析に用いている従来の工学的モデルのハザードモジュールに代わって,降雨データ等の既存の情報から洪水リスクを定量的に評価するための手法をインドネシアのジャワ島を例に提案する.まずGSMaPからRRIモデルにより河川流量を計算する.次に条件付き確率モデルであるHeffernan-Tawnモデルで構築した多地点間の極値での依存関係から流量の同時超過確率を算出するとともに,一例を可視化して確率的洪水イベントの地理的相関が表現されていることを確認する.

  • 三浦 七海, 李 琳娜, 孫 文兆, Shumona Akther , 藤田 昌史
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     太平洋の低平な環礁国では,生活排水等により沿岸生態系が劣化し国土維持機構が破壊されつつあるため,水没の危機が加速化している.そのため,環礁における主要な砂生産者である底生有孔虫に着目し,水質汚濁に対する知見を得ることは重要になる.本研究では,マジュロ環礁の都市域沿岸の水質汚濁を想定して,底生有孔虫Baculogypsina sphaerulataに1,000倍,10,000倍に希釈した都市下水を8日間曝露した.そして,パルス振幅変調を用いて光化学系IIの有効量子収率Y(II),最大量子収率Fv/Fm,クロロフィルa含有量,過酸化脂質LPOをそれぞれ調べた.共生藻類の指標となるY(II)は,いずれの希釈倍率でも実験開始後すぐに低下した.宿主の酸化ダメージの指標となるLPOは,1,000倍希釈のとき上昇した.つまり,1,000倍希釈では宿主と共生藻類が,10,000倍希釈では共生藻類が負の影響を受けることがわかった.以上のことから,マジュロ環礁の都市域沿岸は,B. sphaerulataが生息しにくい環境であることが示された.

  • 木暮 聖, 桑原 祐史
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_139-I_145
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     地球観測衛星を使用した地表のモニタリングには広域性,周期性,同時性という特徴があり,任意の地域の地表面を一定間隔で調査することができる.合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Rader)は天候の影響を受けにくいセンサであり,迅速な対応が求められる災害時の利用に向いている.SARを使用した被害域の抽出の方法として干渉SARがあり,防災分野で広く適用されている.本研究では,茨城県潮来市日の出地区のような平野部を対象に,2つの干渉SAR解析手法を適用し,地表面変動量と住宅被害の有無について観測,評価を行った.結果,干渉SARの適用に向く平坦地であればcmオーダーの観測が可能であること,個々の建物被害の読み取りが概ね可能であること,被害分布には旧地形との関連があることを確認した.

  • 佐藤 悠行, 黒木 幹, 桑原 祐史
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_147-I_154
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     地形計測技術の進歩に伴い,地表面構造物を含む計測データから地盤高データを減じた各種の差分データの利用が注目されている.特に差分利用に注目されているものが,地表面構造物を含む数値表層(DSM:Digital Surface Model)モデルと数値標高モデル(DEM:Digital Elevation Model)である.DSMに含まれるビル等地表面構造物のデータは,局所的に大きな高さ方向のデータを低減するためのウィンドウを用いて平滑化されるが,構造物は多種多様であることから,局所的に厳密に標高値が推定できていない場合もある.このため,DSMとDEMの差分データは必ずしも正確な構造物の高さを表しているとは言えないが,その有無を示唆するデータであると言える.そこで本研究では,DSMとDEMの差分データに着目し,地表面構造物の分布との関係を分析及び避難支援情報として活用する方法を提案し,その有用性を確かめた.

  • 小笠原 雅人, 桑原 祐史
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_155-I_166
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     近年,地球温暖化に伴い,100mm/hを超える突発的な集中豪雨が多発しており,洪水氾濫のリスクの高まりが指摘されている.国内の一級河川では最近数十年に植物の繁茂による河道の環境変化が進んでおり,粗度の増加や河道の縮小といった流下機能の低下が懸念されている.環境と防災という,異なる2つの目的を満足する適切な伐採計画を作成するには,バイオマス量の経年変化を把握し,その効果を十分に議論する必要があるが堤外地のバイオマス量を対象とした長期の変遷データは存在しない.そこで,本研究では衛星画像を用いた長期(約30年)のバイオマス量変化の推定を目的とした.採取した植生サンプルと正規化植生指標からバイオマス量(草地)および分布域(樹林)を推定することで,これらの議論のベースとなる堤外地の長期バイオマス量変化を定量化した結果,対象とした3河川全てにおいて増加傾向にあることが分かった.

  • 井上 笑瑠, 長谷川 知子, 渡邉 諒一, 藤森 真一郎
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_167-I_175
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     地表面付近に存在する対流圏オゾンは酸化力が強く、その化学的性質は植物に悪影響を及ぼし、特に食料供給という観点からは作物収量の損失が問題視されている。本稿では、世界を対象に気候変動とその緩和策に伴うオゾン濃度の変化が、作物収量変化を通じて食料消費や飢餓リスク人口に及ぼす影響を明らかにした。結果として、強い気候変動対策を実施した場合において気候変動なし・緩和策なしの場合と比較して、世界全体で飢餓リスク人口は気候変動影響により約980万人増加する一方、オゾン濃度軽減により約550万人減少し、実質約380万人の増加となった。オゾン濃度軽減による飢餓リスク人口の減少は現在も深刻な飢餓に直面している地域であるインド、その他アジアなどで大きくみられた。この副次的便益は途上国を中心に気候変動対策の導入へのインセンティブになるといえる。

  • 和田 悠暉, 長谷川 知子
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_177-I_182
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
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     農畜産業における温室効果ガス(GHG)排出削減対策は気候変動の緩和に向けて重要な役割を果たすと期待されている。これまで農畜産業部門の生産者側の排出削減策については研究されてきたが、消費者側の取り組みによる効果についてはまだ検討されていない。そこで、本研究では日本・アメリカを対象に農畜産業の消費側でのGHG排出削減の取り組み、すなわち、食の内容の変更、畜産物消費の抑制によるGHG排出削減効果を推計した。結果として、栄養・環境面を考慮した食の内容へ変更した場合、2050年で日本では13.3MtCO2eq/年(2050年対策を実施しない場合の排出量の46%相当)、アメリカでは306MtCO2eq/年(同じく60%相当)の排出削減効果が見込まれた。このことから消費側の取り組みにより生産側と同等かそれ以上の排出削減効果が期待される。さらに、食内容の変更のなかでも特に牛肉・乳製品の消費抑制がGHG排出削減において有効であることが示された。

  • 桑葉 祐斗, 長谷川 知子, 藤森 真一郎, スィルバ エラン ディエゴ
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_183-I_189
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
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     パリ協定で設定された2℃目標の達成には大規模な再生可能エネルギーの導入が必要とされている。しかし、既存研究の再生可能エネルギーの潜在生産量の計算は土地利用を現状と将来も同じと仮定したものがほとんどであった。そこで本研究では、現在から2100年までの土地利用変化を考慮した世界における風力・太陽光エネルギーポテンシャルを推計した。その結果、気候緩和策を取らず、中庸な社会経済状況におけるなりゆきシナリオ(SSP2_BaU)のときは、2050年の技術的ポテンシャルは風力で623EJ/年、太陽光(未利用地)で12,685EJ/年、太陽光(都市)で196EJ/年であり、現状の土地利用を将来に想定した場合と比べてそれぞれ3.4%、9.0%減少した。地域別では、風力・太陽光ともにアフリカでのポテンシャルが最も高く、SSP2_BaUのとき、2050年ではそれぞれ234EJ/年、6,265EJ/年であり、現状の土地利用を将来に想定した場合と比べてそれぞれ11.1%、17.1%減少した。研究の結果は将来の統合評価モデルのシナリオにおいて、再生可能エネルギーポテンシャルに土地利用を考慮する必要があることを示唆している。

  • 伊藤 涼太朗, 長谷川 知子, 藤森 真一郎, 花崎 直太
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_191-I_196
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
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     今世紀末までに産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃未満に抑えるいわゆる2℃目標を達成する場合、世界の総エネルギー供給量の約20~30%をバイオマスエネルギーで賄うことが示されてきた。しかし、大規模なバイオマスエネルギーによる副次的な環境への影響、特に水資源や窒素肥料への影響はまだ十分に評価されていない。そこで、本稿では世界を対象としバイオマスエネルギー生産に伴う環境影響として潜在的な窒素肥料必要量と水消費量を明らかにした。2℃目標達成に必要なバイオマスエネルギーの生産にともなう潜在的な窒素肥料必要量は灌漑ありのミスカンサスの場合、9TgN/年となることが示された。一方、灌漑を行うことによる水消費量は392㎦/年増加する結果となり、2℃目標達成と水資源や窒素等の問題を同時に考慮する必要性が示唆された。

  • 大城 賢, 藤森 真一郎
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_197-I_207
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     CO2排出削減策として,水素・アンモニア等の水素エネルギーキャリアの有効性が指摘されている.しかし,電化やバイオマスとの競合など,エネルギーシステム全体を包括的に考慮した上でその有効性を評価した研究は少ない.本研究は世界全域を対象に,水素関連技術を明示的に考慮したエネルギーシステムモデルを開発し,その役割を明らかにすることを目的とする.結果,CO2排出をほぼゼロとする大幅削減,および炭素回収貯留(CCS)が制限された場合において,水素エネルギーキャリアは2050年の最終エネルギー消費の約1割まで拡大し,特に運輸・産業部門の残存排出量削減策としての有効性が示された.特定の条件下では水素エネルギーキャリアは重要性を増すといえるが,気候変動緩和策としては,電化・バイオマス等を含めた総合的な方策の重要性が示唆された.

  • 冨樫 聡, 霜山 竣, 藤原 盛光, 佐藤 大地, 佐藤 怜, 内田 洋平
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_209-I_220
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     宇都宮市大谷石採取場跡地の地下空間内に存在する低温の水は,冷熱エネルギー源としての利用が期待されている.地球温暖化抑制に寄与する冷熱利用事業の健全化を目的として,現地モニタリングや模型実験を実施し,地下空間貯留水の実態把握と低温化メカニズムの考察を行った.貯留水の一斉観測結果より,半水没状態の地下空間で低温(10℃未満)の水の存在が確認されたが,83%の地下空間が満水状態であることがわかった.貯留水の低温化は,半水没状態の地下空間において冬期に冷却された外気が地下空間に流入して冷却源となる顕熱プロセスと,貯留水の蒸発によって水温低下が生じる潜熱プロセスより複合的に生じるものと考えられる.室内模型実験で潜熱プロセスを検証したところ,地下空間に流入する空気の湿度と貯留水温に正の相関が認められ(R = 0.69~0.75),流入空気の湿度が低いほど,貯留水の温度低下量が増大することが明らかとなった.

  • 田村 誠, 内山 治男, 今井 葉子
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_221-I_229
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     本稿は,2020年12月に茨城県14市町4,275件の認定農業者を対象に実施したアンケート調査から,農業分野における気候変動影響と適応策の現状と課題を議論した.その際には,空間情報解析と統計解析を組み合わせて考察した.

     調査の結果,9割以上の農家が収量低下,生育不良,病虫害などの天候被害の経験を有しており,その要因に高温,多雨等を挙げていた.実践中の適応策には農薬・防除,栽培品種の変更,水やりの工夫等の順に回答が多く,将来的な適応策には栽培品種の変更,栽培時期の変更,水やりの工夫,作物転換も視野に入れた回答が見られた.既に多くの適応策を実践している様子も窺えた.さらに,こうした適応実践には被害経験,気候変動の実感,適応の認知等の複数要因が関与していることが明らかとなった.

  • 供田 豪, 徳力 遼, 森杉 雅史, 大野 栄治
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_231-I_241
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     近年石川県の千里浜では,年間に約1mもの速度で砂浜が後退しており,貴重な観光レクリエーションの場が急速に失われつつある.さらに近い将来には,気候変動に伴う海面上昇による砂浜のさらなる消失が危惧される.そこで本研究では,より新しい砂浜レクリエーション交通データを取得し,砂浜面積以外にも気象という新たな環境質変数を考慮することで,既往研究における温暖化被害の将来推計の精緻化を図る.この時,気象や海面上昇の変化によって被害へ与える寄与率も導出する.主だった対象地域は,新潟県・石川県の沿岸地域における砂浜とする.また,気象の将来予測にはGCM・MIROCにおけるRCP2.6とRCP8.5のシナリオを用いる.分析の結果,寄与率の算定により,主だった被害の内訳は海面上昇と砂浜侵食によるものであり,気温の上昇は訪問者の選好を通して直接的に被害を軽減する.一方で,海面上昇を通して間接的に被害の増加にも働くことが示唆された.

  • 大場 真裕子, 横木 裕宗, 田村 誠
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_243-I_249
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     気候変動に伴う海面上昇等は沿岸域に大きな影響を及ぼすため,適応策の策定・実施に向けてその社会経済評価は必須である.本研究では,日本沿岸域を対象として,海面上昇と潮汐による各都道府県の潜在的な浸水面積,影響人口,浸水被害額といった浸水影響を定量化した.最新の気候シナリオ,潮汐データ,社会経済シナリオ(SSP)を活用して,日本沿岸域の海面上昇と浸水影響を3次メッシュ(1km)の解像度で全国一律に評価したことが特徴である.その結果,代表的濃度経路のうちRCP8.5における全国の潜在的浸水面積は,2050年に約2,127km2,2100年に約2,598km2になると推計された.影響人口は2050年に約461万人-551万人(SSP1-5),2100年に約253万人-565万人(SSP1-5)となり,浸水被害額は2050年に約400億US$-644億US$(SSP1-5),2100年に約580億US$-1,850億US$(SSP1-5)と推計された.さらに,人口の密集する都市部や地形条件など,都道府県沿岸の特徴についても検証した.

  • 西浦 理, 藤森 真一郎, 大城 賢
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_251-I_262
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     パリ協定で示された気温目標達成のための排出削減技術として,CO2を回収し地下に貯留する技術(CCS)が注目されている.CCSの利用には貯留容量の制約が存在し,特に人口密度の高いアジアでは排出量に対してCCS容量の制約が相対的に大きい可能性がある.本研究は世界全体とアジア8か国を対象に貯留容量を推計し,貯留層の分布や調査状況からCCSの利用が制限されたときの排出削減策への影響を一般均衡モデルを用いて計算した.結果は,世界全体では十分な容量が確保される一方で,日本やインドでは容量が不足する可能性を示した.また,CCSの利用制限により,経済損失やバイオエネルギー需要の増加が見込まれた.本研究の結果は地域間での貯留層の共有などの国際協調の必要性を示唆している.

  • 佐々木 克哉, 藤森 真一郎, 長谷川 知子, 大城 賢
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_263-I_273
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     温室効果ガス排出削減策として炭素税が注目されている。炭素税は効率的に排出削減を行えるが、課税による影響が生活必需財・サービスに偏るという性質から、低所得階層ほど影響が大きいことが懸念されてきた。そこで本研究は、日本を対象として炭素税が所得階層別に家計消費へ与える影響を明らかにした。計算にあたり、消費行動変化が内生的に考慮されるモデルを用いた。その結果、低所得階層と高所得階層で支出減少割合に0.91%の差が生じ、低所得階層ほど課税による影響が大きいことが示された。このような結果が生じたのは、特に価格が大きく上昇する光熱関連が生活に欠かせない財・サービスであるために、低所得階層ほど消費行動を変化させられず、他の消費項目の消費を大きく減らさざるを得ないという、家計消費がもつ構造が原因だと考えられる。

  • 松井 そら, 大城 賢, 藤森 真一郎, 西浦 理
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_275-I_283
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     パリ協定長期目標の達成において,主要な排出源である交通部門からの排出量を削減することは重要である.本研究では2度目標の達成に向けて,カーシェアリング,自動運転,ロードプライシングといった多くの交通部門の新しい技術やサービス,政策が,排出量やエネルギー構成,削減コストや他部門などに与える影響を推計した.その結果,交通部門の変容は石油消費量の削減や排出量の削減だけでなく,他部門の排出制約の緩和や炭素価格の低減,さらにエネルギーシステムへの追加的な投資を大幅に削減できる可能性が示唆された.交通部門における積極的な需要抑制や燃費改善といった政策は,排出量だけでなくコスト面などでも多くの好影響を及ぼすことが分かった.

  • 奥田 啓太, 越智 雄輝, 長谷川 知子, 五味 馨
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_285-I_292
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     2015年に採択されたパリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち,1.5℃に抑える努力をすることが合意され,21世紀後半には,温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとる長期目標が掲げられた.京都市では 2050年までに温室効果ガスの排出を正味ゼロにする脱炭素社会の実現を目指すことを表明している.本研究では,京都市において2050年の二酸化炭素排出量が実質ゼロとなる姿を定量化した.その結果,京都市において二酸化炭素排出量を吸収量以下に抑えるには,省エネによりエネルギー需要を削減した上で,家庭,業務,旅客輸送,貨物輸送部門の残るエネルギー需要を全て再エネ由来のエネルギーで満たし,産業部門についても第一次産業で70%,第二次産業で30%のエネルギー需要を再エネ由来の電力で賄う必要があることが示された.

  • 大久保 伸, 松本 亨
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_293-I_302
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     本研究では,静脈物流の特性に応じたモーダルシフト策を検討するために物流センサスの調査データを使用して車両,鉄道,船舶の3モードを対象とした数量化理論第II類による輸送機関の選択要因を行った.さらに,輸送費用を目的関数とする重回帰分析を行った.その結果,鉄道へのシフトを考える際には輸送費用ではなくコンテナ利用や遠方輸送など排出形態が問題であること,一方,船舶は輸送費用がネックとなっていることから素材産業と共同輸送を行うなど費用低減に資する対応策を検討する必要があることがわかった.また,輸送機関の選択モデルによるモーダルシフト可能量を算定し,業界が示す二酸化炭素排出量の削減目標値以上の削減率である18%減を得た.

  • 宮本 善和, 安東 正行, 玉城 重則
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_303-I_310
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     八重山地方のサンゴ礁生態系と共存する持続可能な産業への転換を促すため,事業者,団体,個人などがサンゴ礁生態系の保全に資する行動を促すための緩やかなスキームとして,フレンドシップ登録制度を提唱し,その制度の骨格をデザインした.そして,イノベーター理論とキャズム理論を考慮して,その効果的な普及戦略について分析・考察した.また,赤土流出を抑制する営農対策の普及とその向上を図るため,農地の土壌保全のガイドラインを整理した.さらに,赤土流出量が多いサトウキビの夏植栽培について,対策を行わない場合の損失額を推計し,損失が少なく土壌保全の効果が高い複合対策を明らかにした.

  • 平山 奈央子
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_311-I_316
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     幼児期における環境学習は豊かな心情や思考力の養成のために重要である.本研究では,滋賀県内の幼稚園等における環境学習の実態を把握するためにアンケート調査を実施し,学習の活発度に影響を与える要因を明らかにした.その結果,i) 前任園での活動について情報共有している園は実施している環境学習の種類数が多い,ii) 五感で触れ合うゲームを実施している園は安全面での不安が少ない,iii) 動植物の飼育栽培を実施している園は園の規模が小さく,指導者が危険生物を把握している,iv) 栽培した野菜等を食べる活動を実施している園は,園の規模は大きいが指導者1人当たりの園児数は少ない,などの傾向があることが明らかとなった.

  • 立花 潤三, 森 卓哉, 宮窪 航希, 松崎 仁平, 榊原 一紀
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_317-I_323
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     厳しい財政状況にある地方自治体の多くは,「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」に則り,財政支出の見直しを迫られている.急激な人口減少に直面している地方自治体では,人口動態が直接的に影響するごみ収集・運搬システムの見直しが課題の一つとなっている.本研究では,ごみ収集・運搬システムの効率化を実現する上で重要な要素となる,ごみ集積所の配置計画モデルの開発を行った.本モデルは,ごみ集積所までの距離に対する住民意識を考慮しながら,集合被覆モデルによりごみ集積所の最適配置を導出するモデルである.富山県南砺市を対象地として行った実証分析の結果,可燃ごみ集積所は,現在の883カ所から531カ所へ約40%の削減でき,資源・不燃ごみ集積所は,現在の426カ所から319カ所へ約25%の削減が可能であることが示唆された.

  • 藤田 昌史, 桑原 祐史, 小林 薫, 増澤 徹
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_325-I_330
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     地方中都市であるH市を対象として,14の配水区域の有収水量と配水管ネットワークのCADデータから250mメッシュごとの有収水量,配水管延長をそれぞれ計算し,配水管使用効率を求めた.その結果,標高0~10m(海側)と70~200m(山側)に布設されている303km(総延長の32.0%)の配水管の使用効率が低いことがわかった.2058年度までの収益的収支を試算し,赤字額を受益者が負担すると仮定したところ,現存の配水管ネットワークをすべて更新する場合,最大で約1,600円/人/月を負担しなければならず,配水管の更新を約70%に抑えた場合は約1,250円/人/月,H市が目標としている人口15万人を維持し,配水管の更新を約70%に抑えた場合は約580円/人/月と見積もられた.配水管ネットワークをダウンサイジングしても,収益的支出の抑制とともに人口減少の抑制を図ることが重要になることが明らかとなった.

  • 藤本 穂乃佳, 白木 裕斗, 村上 一真
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_331-I_339
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     本研究は,一般家庭を対象にした質問紙調査により,住宅に対する住民評価の影響要因を特定した.質問紙調査の回答に共分散構造分析を実施した結果,住宅に対する住民評価に最も影響を与える要因は住宅の居住環境に対する評価であること,省エネによる個人への便益や住居費の経済性に対する評価も有意に影響を与えていることが明らかとなった.多母集団同時分析の結果,賃貸集合住宅の世帯は持ち家一戸建世帯よりも住居費の経済性を重視していること,省エネ意識が高い世帯は省エネによる個人への便益ではなく,省エネによる社会貢献が住宅に対する住民評価に影響を与えることが確認された.住宅を購入・賃借する世帯に事前に簡単な口頭確認を実施し,省エネ意識を確認した上で適切な広報戦略を選択することが,省エネ住宅の普及促進に繋がると言える.

  • 小澤 はる奈, 馬場 健司, 木村 道徳, 齊藤 裕佳, 田澤 慧
    2021 年 77 巻 5 号 p. I_341-I_348
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/23
    ジャーナル フリー

     本研究では,神奈川県相模湾沿岸地域におけるヒアリング調査の議事録に,テキストマイニングとネットワーク分析を適用して,気候変動影響や適応に関する論点を抽出した.ヒアリングの中で使用された語の関係性から10の論点が抽出され,このうち「砂浜の消失」「台風被害・気象災害」「高潮・津波対策」「水産業・磯焼けへの対策」は多分野のステークホルダーから言及されていた.これらのテーマについての実感は概ね共通しているが,「砂浜台風高潮」の話題については分野ごとに異なる語が出現していた.多くのステークホルダーの参画を得ようとする際,ある論点について分野ごとに異なる切り口でアプローチする必要があることが示唆された.

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