2022 年 78 巻 7 号 p. III_103-III_113
二次生産者の生産性評価は,生物多様性保全や漁業生産管理の観点から重要である.本研究では,海域の二次生産性評価への応用を念頭に,主要な二次生産者であるカキについて,殻の化学分析に基づく成長過程評価の実現可能性を明らかにすることを目的とした.カキ殻のチョーク層中Mg/Ca比と水温の関係の解析から,水温が層のMg/Ca比に反映されるのに1か月程度を要する可能性とともに,2か月程度で1つのチョーク層が形成されていると示唆された.また,右殻殻頂付近の両表面内部のチョーク層と葉状層は成長過程を記録していると考えられる.その領域の面積は,殻の厚さ・殻高・殻切断面面積と正の関係を示し,カキ成長の定量的な指標となることが示された.これらの殻形態指標間の関係と実海域の水温データから,約2か月毎のカキ個体の成長過程を推測した.