日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
摂食中における軟口蓋の動きと下顎運動の連動性の検討
松尾 浩一郎目谷 浩通Keith A. MAYSJeffrrey B. PALMER
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キーワード: 軟口蓋, 咀嚼, 嚥下, 時系列分析
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2008 年 12 巻 1 号 p. 20-30

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抄録

【目的】今回われわれは,固形物の咀嚼,嚥下中の軟口蓋と下顎運動の時間的・空間的な連動性を明らかにするため,両者の運動を時系列分析を用いて検討した.

【対象と方法】摂食・嚥下障害のない健常若年成人15名(平均25歳)を対象とした.細いゴムチューブの先に接着したX線不透過性のマーカーを経鼻的に挿入し軟口蓋上に設置した.また,基準平面の設定ならびに下顎運動の記録のため上下顎にもマーカーを接着した.被験者に6gのバナナ,チキンスプレッド,クッキーを摂取させ,嚥下造影検査を行いビデオに記録した.VF上での軟口蓋と下顎の位置をフレームごとに計測し,XY座標へと変換した.摂食の一連の流れを咀嚼期,中咽頭食塊集積期ならびに嚥下期の3つの時期に分け,各時期の軟口蓋運動の最挙上点を同定し,検査食品,各時期での違いを比較した.また,軟口蓋と下顎運動の時間的連動性を,交差相関関数を用いて解析した.

【結果】咀嚼期,中咽頭食塊集積期では下顎サイクルの約50%に,開口とともに軟口蓋が挙上するリズミカルな運動が確認された.軟口蓋の挙上頻度は被験者間で有意な差がみられたが (P<0.001),各時期や検査食品での差はみられなかった.軟口蓋挙上の最挙上点は咀嚼,嚥下の時期が進むにつれて高くなり,またクッキーで有意に高くなっていた (P<0.05).軟口蓋と下顎運動は,咀嚼期,中咽頭食塊集積期では軟口蓋が下顎運動に若干先行する形で負の相関を示した (平均R, -0.41±0.24と-0.42±0.18).一方,嚥下期では,軟口蓋が下顎運動に0.13 s 遅れたところで,最大の正の相関が得られた (R,0.49±0.30).

【結論】今回 ,交差相関分析を用いて解析を行った結果,咀嚼,嚥下中の軟口蓋の運動が下顎運動に時間的に連動していることが示された.軟口蓋と下顎運動の咀嚼期ならびに嚥下期での位相のずれは,軟口蓋が咀嚼期と嚥下期において,異なる機能を果たしている可能性が示唆された.

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© 2008 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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