【目的】高齢者への口唇閉鎖訓練の効果に関して,脳波に基づく覚醒度,口腔機能,および日周リズムなど,高齢者の日常生活に結びつく項目の予備的検討を行った.
【対象と方法】老人保健施設に入所中の高齢者5 名(82.6±2.7 歳)を対象に,口腔リハビリ器具を用いた口唇閉鎖訓練を1 日3 回,4 週間続けて行った.訓練前,2 週間後,4 週間後において,口腔機能,睡眠・覚醒パターン(日周リズム),覚醒度(前頭部脳波より算出したBIS 値),および食事動作に対する効果を解析した.
【結果】口腔リハビリ器具を用いた口唇閉鎖運動によって運動前後において覚醒度が上昇し,4週間の口唇閉鎖訓練によって最大口唇閉鎖力と反復唾液飲み込み回数の向上が認められた.また,5 名中4 名で24 時間周期の日周リズムのパワー値が増大した.
【考察】口唇閉鎖訓練は,口唇・嚥下機能の向上だけでなく,覚醒度向上や日周リズム形成を促進する可能性が示され,これらを制御する生理学的機構を介して高齢者のADLを向上するメカニズムが示唆された.