2013 年 17 巻 2 号 p. 164-169
【はじめに】 延髄外側梗塞における嚥下障害では,咽頭収縮や食道入口部の開大に左右差を認めることが多い.従来,嚥下後に咽頭残留がみられた場合,非残留側に頸部を回旋し空嚥下を行って,残留の除去を試みることが推奨されている.今回われわれは,残留側に頸部回旋して空嚥下を行ったところ,残留が除去された1 例を経験したので報告する.
【対象および経過】 症例は54 歳男性.左Horner 症候群,左顔面神経麻痺,lateropulsion,球麻痺,右顔面と右頸部以下の温痛覚障害がみられ,MRI で左延髄外側梗塞を指摘された.嚥下内視鏡検査(VE)では,声帯麻痺を認めなかった.嚥下造影検査(VF)において,食塊の下咽頭への送り込みは左側(病巣側),食道入口部は右側(健側)を通過し,ワレンベルグ症候群では下咽頭への送り込みは病巣側で,食道入口部の通過は健側が多いという,過去の報告に一致した.食塊は左梨状窩に残留したが,同残留は,右側(非残留側)へ回旋しての嚥下後回旋空嚥下では除去されなかった.左側(残留側)へ回旋しての嚥下後回旋空嚥下を施行したところ,食塊が咽頭収縮により左側から右側の梨状窩に移動して,右側の食道入口部を通過した.
【結論】 本例は,通常と異なり,残留側に頸部を回旋することで咽頭残留を除去できた.声帯麻痺がないことが,この手法の条件と思われた.