日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
症例報告
口腔用保湿ジェルを使用し超音波スケーラーにて注水せずにベッド上で歯石除去を実施した1 症例
波多野 真智子大野 友久橋詰 桃代野本 亜希子藤島 一郎
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2023 年 27 巻 2 号 p. 136-142

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抄録

【緒言】摂食嚥下障害患者では,口腔機能の低下・自浄作用の減退などにより口腔内環境が悪化しやすく,口腔衛生管理が重要となる.そして,摂食嚥下障害患者における歯石除去を含む口腔衛生管理には,誤嚥リスクを回避した安全な方法で行うことが大切である.今回,誤嚥や血圧低下を回避する目的で,注水の代替に口腔用保湿ジェルを用いた超音波スケーラーでの歯石除去を実施した起立性低血圧がある嚥下障害患者症例を報告する.

【症例】55 歳男性.脳腫瘍摘出術後の小脳出血,術後性球麻痺を呈し摂食嚥下障害と起立性低血圧が残存していた.意識清明で経口摂取再開の希望が強く,嚥下機能改善手術目的で当院に入院した.長期間にわたる非経口摂取により多量な歯石沈着を認めた.

【経過】超音波スケーラーは効率よく歯石除去可能だが,注水を伴うため水分の咽頭流入による誤嚥のリスクが懸念される.そのため,座位での歯石除去を試みたが,起立性低血圧の影響と考えられる短時間の著明な血圧低下を認めた.摂食嚥下障害には座位が,起立性低血圧には臥位が望ましく相反する体位が必要とされた.そこで,口腔用保湿ジェルを用いた非注水下での超音波スケーラーによる歯石除去をベッド上にて試みた.処置中はバイタルサイン測定および痛みの評価を実施した.すべての処置においてバイタルサインの異常は認められず,処置中・後の疼痛の訴えもみられなかった.そして,歯石の除去効果は注水下での超音波スケーラー使用時と同等であり,手術前に口腔内環境を整えることが可能となった.

【考察】口腔用保湿ジェルを用いた非注水下における歯石除去により,水分誤嚥や血圧低下を回避しながらベッド上での歯石除去が可能であったと考える.今後も,誤嚥リスクの高い患者や離床困難な患者において,口腔用保湿ジェルを用いた超音波スケーラーにより安全な歯石除去が可能となることが示唆された.

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© 2023 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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