日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
原著
咀嚼および重力が嚥下反射開始時の食塊の位置に及ぼす影響
松尾 浩一郎才藤 栄一武田 斉子馬場 尊藤井 航小野木 啓子奥井 美枝植松 宏Jeffrey B PALMER
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2002 年 6 巻 2 号 p. 179-186

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抄録

【目的】咀嚼時には嚥下反射開始前に中咽頭へと食塊が送り込まれ,特に,液体を含む食物を咀嚼嚥下すると食塊は高頻度に下咽頭にまで達する.この嚥下反射開始前に起こる下咽頭への食塊輸送に対する咀嚼と重力の影響を検討した.【対象・方法】健常成人10名を対象に,バリウム水溶液(液体)10ml,バリウム含有コンビーフ(コンビーフ)8g,液体5ml・コンビーフ4gの混合物(混合)を座位,よつばい位の2体位で咀嚼させ,ビデオ嚥下造影(VF)を各2回ずつ試行した.VF像を解析し,「嚥下反射開始時点の食塊先端の位置(食塊先端位置)」を同定し,以下の4つに分類した.1)口腔内Oral Cavity(以下,OC);2)中咽頭上部Upper Oropharynx(以下,UOP:口峡から下顎下縁まで);3)喉頭蓋谷部Valleculae(以下,VAL:下顎下縁から喉頭蓋谷まで);4)下咽頭部Hypopharynx(以下,HYP:喉頭蓋谷を越えて下咽頭に達したところ).また,嚥下反射時の食塊先端の深達度を以下の3段階に分けた後に比較検討した.1)中咽頭部以降:UOP+VAL+HYP(UOP or more,以下UOP-om),2)喉頭蓋谷部以降:VAL+HYP(VAL or more,以下VAL-om),3)下咽頭部HYP.【結果】1.座位:嚥下反射開始直前の食塊の深達度はVAL-omで,混合と他の2食物間で有意差を認めた.さらにHYPでは,全食物間で有意差を認めた.2.よつばい位:食物の違いによる深達度の有意差を認めなかった.3.座位とよつばい位の比較:コンビーフでは,体位を変化させても食塊先端位置の分布はほとんど変わらなかった.液体では有意な差は認めなかったもののよつばい位においてHYPまで達する頻度が減少傾向にあった.混合では,座位に較べ,よつばい位でVAL-om,HYPに達する率が有意に減少した.【考察】嚥下開始前に生じる咽頭への輸送には,舌による能動的輸送と重力による受動的輸送の両者が関与しており,特に下咽頭への進行には受動的輸送が重要と思われた.喉頭閉鎖機構の障害をもつ摂食・嚥下障害者では,嚥下開始前の咽頭へと食塊の輸送が誤嚥に結びつく危険性があり,混合物の咀嚼負荷が負荷テストとして,有用であることが示唆された.

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© 2002 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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