抄録
CAPD (continuous ambulatory peritoneal dialysis) にイコデキストリン透析液を使用することにより, 残腎機能が温存されるとの報告がなされている. 今回, われわれは移植残腎機能低下による腹膜透析への再導入にあたり, イコデキストリン透析液を使用して体液管理をすることにより, 移植残腎機能を保持し, さらにはQOLの改善を得た症例を経験したので報告する. 症例は70歳, 女性. 1999年に原疾患不明の慢性腎不全にて血液透析導入となり, 2001年に屍体腎移植術を施行した. その後, 徐々に移植腎機能低下を認め, 2004年6月からCAPD導入となった. 同年8月から, 夜間の腹膜透析を1.5%ブドウ糖透析液からイコデキストリン透析液に変更したところ, 1日尿量が平均542.9±248.6mL/日であったのに対し, ICO導入後から2005年6月までの1日尿量は平均1,033.0±340.5mLに増加し, それに伴う飲水量の増加も認めた. またイコデキストリン導入後より下腿浮腫の改善を認め, その後の体重は増加し標準体重に徐々に近づいてきている. 体液量に関しては, hANP (human atrial natriuretic peptide) が平均110.2±28.7pg/mLから平均36.2±6.9pg/mL, 心胸郭比が50.8%から44.7%と各々減少し, 体液量貯留が是正されていた. 移植残腎機能に関しては, イコデキストリン透析液導入後の平均s-Cr値, eGFR値 (estimated glomerular filtration rate) は安定しており, 悪化傾向を認めていない. 加えて, イコデキストリン導入後は総コレステロール値と中性脂肪値の低下を認めており, 脂質代謝は改善されていた. QOLに関しては, SF-36 (short form 36) を用いた結果によると, イコデキストリン導入前後で明らかな改善を認めている.