日本透析医学会雑誌
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事故報告
透析用ダブルルーメンインナーカテーテルが心臓内に迷入した1例
片渕 律子緒方 千波松井 礼上野 道雄
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2013 年 46 巻 2 号 p. 207-215

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抄録

症例は50歳代女性.原疾患は妊娠高血圧後遺症.2008年7月腎不全のため当科紹介.10日後,透析導入目的に入院.入院時,尿素窒素102.1 mg/dL,クレアチニン9.9 mg/dL.同日アーガイルヘモフィルトレーションカテーテル(ダブルルーメンスライド式)を右大腿静脈より挿入して血液透析に導入.連日透析4日目,脱血不良のため同じ部位からガイドワイヤーを使用しカテーテル交換.2010年7月,維持透析施設での胸写を契機にカテーテル心臓内迷入が発覚.当時の胸写を見直すと,カテーテル交換後の胸写のすべてに上大静脈から右房,右室にかけて内筒が写っていた.使用したカテーテルは,分岐部の基部から切断すると外筒と内筒が分かれる構造になっており,説明書の禁忌・禁止事項に“いかなる場合も,絶対にカテーテルを切ったりしないこと.”との記載があった.当院でのカテーテル交換の際,分岐基部で切断したため内筒が解離し心臓体内に迷入したことが後で判明した.事故発覚後,当院では診療部に事実を周知,カテーテル操作時の注意を喚起した.また院外の専門医を招聘し,今後の治療方針について協議した結果,迷入したカテーテルは2年が経過しており,摘出するのは困難との結論に達した.以後,ワーファリン投与にて定期的に経過観察.痔出血,眼球結膜出血などのため,ワーファリンは2.75 mgを維持量とし,PT-INRは1.0~1.1で自覚症状なく推移していたが2012年8月の定期の肺血流シンチで左肺上葉に欠損を認め肺塞栓と診断.このためワーファリンを増量し,現在5.5 mgでPT-INR 2.0前後で推移している.本事例は医療器具の操作時に,取り扱い説明書を読むという基本的手順を怠ったために起こった事故であり,また胸写での見落としのために迷入した内筒の摘出ができなかった猛省すべき症例であるため,ここに報告する.

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© 2013 一般社団法人 日本透析医学会
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