2018 年 33 巻 2 号 p. 75-80
災害医療は大量動員を必要とする.また被災者の対応は災害ボランティアの協力が不可欠である.今回我々は2016年に発生した熊本地震により稼働困難となった医療機関の入院患者111名を,本震発生当日に受け入れ災害ボランティア250名を動員した.多数の災害ボランティア(以下,ボランティア)の臨床現場への介入は,感染の持込み,拡大,さらにボランティア自身の感染が懸念され,受け入れ側の組織的体制も問われる.そこで感染発生のリスクアセスメントを行うと同時に,基本的予防概念を基にボランティアの行動を意識した配置や啓発など必然的に感染対策ができる環境作りを行った.また被災患者の症候群サーベイランスにより早期の症状察知,拡大防止システム体制を整えた.
その結果,ボランティア介入下においても感染を防止することができた.症候群サーベイランスでは搬入時は7件の有症状を認め,以後は2.5±1.4件/日で維持でき,ボランティア介入群と未介入群で比較したところ有意差は認めなかった(p=0.39).また延べ入院患者日数当たりの有症状発生率の比較でも,8.8%と6.9%で有意差は認めず(p=0.61),受入れ側の感染管理体制を整備することにより災害時の医療機関へのボランティア介入は十分に可能であると示唆された.