1999 年 2 巻 3 号 p. 326-332
臓器移植法では,「医師は,本人が臓器提供の意思を書面により表示している場合であって,遺族が拒まないとき又は遺族がないときは,移植術に使用されるための臓器を,死体(脳死した者の身体を含む。)から摘出することが出来る」旨を規定しており,本人の書面による意思表示を必須条件としている。したがって,意思表示カードの普及が,臓器移植を定着化させるうえできわめて重要な課題となっている。また,「『臓器の移植に関する法律』の運用に関する指針(ガイドライン)」のなかでは,深昏睡,瞳孔固定,脳幹反射の消失,平坦脳波のいずれもが確認された場合(脳死判定項目のうち無呼吸テストを除いたもの。)を,「臨床的な脳死」と位置づけ,主治医が臨床的に脳死と判断した時点以降において,家族の状況等を判断したうえで,家族から本人の臓器移植等についての意思表示の有無を聞き,その意思の存在が考えられた場合に,家族の承諾を得たうえで臓器移植ネットワークに連絡し,派遣されたコーディネーターが家族に対して必要な説明を行うこととなっている。したがって,法律に基づく脳死判定が行われ,臓器の提供の善意が活かされるためには,救急医は非常に重要な立場にあり,救急医の協力なしに臓器移植を行うことはできないものと考えられる。