2017 年 24 巻 1 号 p. 22-25
症例は69歳の男性。突然の左腰背部痛のため当院に救急搬送され,腹部大動脈瘤破裂の診断で緊急腹部大動脈人工血管置換術が行われた。術後9日目に施行したCTにて右内頸静脈血栓を認めたためヘパリン持続静注を開始したが,術後10日目に血小板数が前日の40%に減少しており,HIT(heparin-induced thrombocytopenia)の可能性を考えてすべてのヘパリンを中止した。術後11日目にHIT抗体強陽性との結果を受けアルガトロバンの持続静注を開始したが,APTT延長が続いたため,アルガトロバンを漸減,術後15日目には中止せざるを得なかった。その後も抗凝固療法が行えないまま術後59日目に死亡した。本邦でHIT治療薬として承認されているのはアルガトロバンのみであるが,APTTによってその投与量を決定するため,本症例のように凝固障害に陥ると減量が必要となりHITの病態悪化を招く可能性がある。HIT-associated consumptive coagulopathyに陥った場合の治療法は確立されておらず,今後の課題である。