1999 年 59 巻 2 号 p. 188-194
心筋に対する虚血前のカルシウム投与が虚血耐性を獲得するプレコンディショニング効果として作用し, それが心筋の虚血再灌流障害を軽減し得るかについて検討した.〈方法〉ラット摘出灌流心を用い, 虚血前にカルシウム濃度を変えた5種類のKrebs Henseleit bicarbonate buffer (KHB) 溶液 [実験群: Groupl (control) , Group2, 3, 4, 5, それぞれCa=2.5, 3.0, 3.5, 4.0, 5.0mM/L] にて1分間灌流投与しプレコンディショニングとした.そして30分間の常温 (37.5℃) 虚血後に再灌流し, 心機能 (HR: heart rate, LVDP: left ventricular developed pressure, LV dp/dt: left ventricular pressure dp/dt, CF: coronary flow) の回復率および細胞内カルシウムイオン濃度 (Group3) を虚血前値と比較検討した.〈結果〉Group2, 3, 4, 5はControl群に比較して虚血再灌流後LVDP, LVdp/dtおよびCFにおいて良好な回復を示した.またGroup2, 3, 4, 5の各群間に有意差は認めなかった.細胞内カルシウムイオン動態において, Group3はcontrol群に比較し虚血再灌流時における細胞内カルシウムイオンの過負荷は認めなかった.〈結語〉虚血前にカルシウムを軽度負荷することで, 次の長時間虚血に対して耐性を得ることができ, 虚血再灌流障害を軽減するプレコンデイショニング効果となる可能性が示唆された.