抄録
はじめに
感染症に対する抵抗力の低い患者が多い重症心身障害児(者)施設では、感染力が強いノロウイルスの主要な感染経路の一つである糞口感染に対して、トイレの環境整備が重要とされている。そのため、我々は重症心身障害児病棟での排便時の便器の汚染状況を明らかにしたいと考えた。なかでも、排泄動作が通常と異なる、埋め込み式便器に焦点を当てた。
方法
本研究は重症心身障害児(者)の排便を模倣した便を用いた実験研究である。模擬便は増粘剤で形状を変えたA:水様便 B:A,Cの中間の硬さの便 C:泥状便とし、それぞれのサンプルごとに跳ね返りの数、跳ね返りの距離を10回計測。模擬便を青色、便器内の水を赤色に着色し、跳ね返りの色を観察した。
結果
3種類の模擬便を押し出した結果、跳ね数の平均値はサンプルA:35個 B:3個 C:0個であった。跳ね返りの距離の平均値はA:10.5cm B:3.5cm C:0cmであった。跳ね返りの色はサンプルA、サンプルB共に紫色であった。
考察
結果から、跳ね返りは腰部や背部にまで至っていると推測され、排泄援助を行う際には、陰部だけでなく腰部から背部まで保清することが必要であると言える。また、跳ね返りの色が紫色で、模擬便と便器内の水が混ざり合って跳ね返っていることが明らかとなり、便器内を清潔にすることの重要性も明らかとなった。そして、埋め込み式便器を使用する患者の移動方法から、周囲に汚染を拡げることが推測される。そのため便器周囲も環境整備を実施するべきと言える。
また、跳ね返り自体を減らすことにより、患者の保清による身体的負担や精神的負担が軽減される。患者のQOLが重要視される重症心身障害児看護において、感染拡大を予防し、なお且つ患者の負担が軽減されることは有意義だと考える。
結論
粘度が水様に近いほど跳ね返りの数が多く、距離も長く跳ぶ。その跳ね返りは便と便器内の水が混ざったものである。
申告すべきCOIはない。