抄録
緒言
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は体動制限や水分摂取不足、長期臥床による骨脱灰、薬剤の副反応等の様々な原因により尿路結石を発症しやすい。また併発した尿路感染症の治療に難渋することがある。我々は尿管結石嵌頓・尿路感染症の治療中にST合剤による高K血症を呈した重症者の一例を経験したので報告する。
症例
細菌性髄膜炎後遺症による痙性四肢麻痺、症候性てんかん、神経因性膀胱で間欠的導尿を行っている大島分類1の33歳男性重症者。抗てんかん薬など9種類の薬剤を服用中。数年来、腎・尿路結石がありST合剤の予防内服を行っていたが、尿路感染症の増悪により敗血症に至り、左尿管結石嵌頓を認めたため腎瘻を造設した。その後、左尿管結石嵌頓に対し経尿道的尿管結石破砕術(以下、TUL)、尿管狭窄拡張術を施行したが、尿路感染の再燃を認め入院。セフトリアキソンナトリウム水和物(以下、CTRX)で治療を開始。右尿管結石、左尿管狭窄に対しそれぞれTUL、尿管狭窄拡張術を施行した。しかし膿尿および炎症反応の軽度上昇が持続した。CTRXを中止しST合剤を治療投与量に変更したところ、抗生剤変更4日目に血清クレアチニン(Cr)が0.55 mg/dLから0.94 mg/dLまで上昇、6.7 mmol/Lと高K血症を認めた。GI療法を4クール行い、ST合剤からテイコプラニンに変更したところ、血清Cr値および高K血症は改善した。予防投薬としてST合剤を少量から漸増したところ血清K値の上昇は認めず、紹介元に転院となった。
考察
筋肉量の乏しいことが多い重症児(者)においては、血清Cr値等の臨床検査指標が正確に腎機能を反映しないことがあり、腎排泄型の薬剤の投与量の調整が困難である。またST合剤は併用薬剤との相互作用により副作用の発生頻度が高まるとの報告があり、使用薬剤の多い重症児(者)においては特に注意が必要となる。
申告すべきCOIはない。