日本栄養・食糧学会誌
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総説
線虫Caenorhabditis elegansの栄養状態に依存した連合学習と行動可塑性の制御機構
ジャン ムンソン森 郁恵
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2023 年 76 巻 2 号 p. 111-117

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抄録

脳神経系は, 感覚, 思考, 学習, 感情, 行動などの私たちの日々の生活に重要な生命現象を制御している。脳の仕組みを解明するため, 多種多様な研究が世界中で行われているが, 近年, 腸など他の組織が脳機能に影響しているという新たな知見が得られはじめている。線虫Caenorhabditis elegansは, マウスやサルなどの哺乳動物の複雑な脳とは異なり, 際立って少数の神経細胞からなる脳を持ち, この線虫を用いることで, シングルセルレベルの解像度で脳の情報処理の全体像を研究することが可能である。これまでに, 線虫は化学物質や温度などのさまざまな刺激に走性を示すことがわかっているが, その走性行動は摂食状態, すなわち広い意味での栄養状態に依存して変化することも知られている。つまり, 線虫は, エサの有無といった栄養状態と刺激を連合学習し行動に反映することができる。学習により生成された行動にはRAS/MAPK経路やTOR, インスリン, モノアミンシグナル伝達など, ヒトまで進化的に保存された重要な分子が働いている。本稿では, 線虫の脳神経系が栄養状態に依存して行動可塑性を制御するメカニズムに関する遺伝学的知見を概説し, 記憶学習に関与する分子機構と, 感覚応答及び内部状態による行動制御機構について紹介する。

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© 2023 公益社団法人 日本栄養・食糧学会
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