現在, 脳に良い栄養素や食品に注目が集まっているが, 脳機能に対する栄養素と食品の役割とその作用メカニズムが神経科学的に解明された例は少ない。一方, イメージング, 電気生理学, 分子生物学, 行動学などの脳機能制御のメカニズムを解析する技術の確立が進んでいる。我々はこれら技術を用いて, 記憶能力を中心に脳機能に対する必須栄養素の役割の解明を進めてきた。本総説では, 我々が明らかにしてきた記憶能力に対するマグネシウムとビタミンB1欠乏の影響を紹介する。マグネシウムやビタミンB1の欠乏により, 行動レベルでは海馬依存性記憶に障害が観察されること, また, 分子レベルでは脳内炎症が誘導されることが明らかとなった。特にビタミンB1欠乏では強い脳内炎症のみならず, 海馬の神経変性が誘導されることも示された。以上の結果や他の知見と考え合わせると, 栄養摂取異常により脳内炎症が誘導され, 脳の最も高次な機能である記憶機能がダメージを受ける共通メカニズムの存在が示唆された。