日本栄養・食糧学会誌
Online ISSN : 1883-2849
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生活習慣病予防のための食事・運動療法の作用機序に関する研究
平成18年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞
江崎 治
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キーワード: 運動, 肥満, 糖尿病, , 心筋梗塞
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2006 年 59 巻 6 号 p. 323-329

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抄録
運動は, 肥満や糖尿病を予防する。筋肉のAMP-キナーゼ活性が減弱したマウスの研究から, 筋肉のAMP-キナーゼが, 運動の体脂肪減少効果に必要であることがわかった。AMP-キナーゼは細胞内エネルギー不足を感知し, 糖や脂質の代謝を亢進させる酵素である。一方, 運動を繰り返すと糖輸送体GLUT4量が増加し, 運動をしないとGLUT4量は減少する。GLUT4は糖の筋肉への取り込みに関与するタンパク質で, GLUT4量増加は運動の糖尿病予防効果の主因と考えられる。ミニジーンGLUT4欠失ミュータントのトランスジェニックマウスを用いた研究から, 運動に反応するシスエレメントの存在部位も推定されている。魚の摂取は心筋梗塞を予防する。魚油のSREBP-1c活性化阻害による脂肪合成抑制, PPARα活性化による脂肪燃焼亢進作用が肝臓で認められた。SREBP-1c活性化抑制は絶食時にも認められるが, 魚油は絶食とは異なる機序でSREBP-1c活性化を阻害した。SREBP-1c活性化の阻害が, 心筋梗塞の予防に関与するかどうかは明らかでない。一方, PPARα活性化は, 血中中性脂肪低下剤フィブレートのおもな作用であり, フィブレートにも心筋梗塞予防作用があることから, 魚油の心筋梗塞予防作用は, 一部にはPPARα活性化作用を介していることが推定される。このように運動, 魚の摂取は生体でのエネルギー代謝に大きな影響を与え, 生活習慣病予防機序の一部として働いていると考えられる。これらの機序を明らかにすることは, 運動のできない人の疾病予防薬の開発, テーラーメイドの疾患予防の理論構築のために重要である。
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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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