日本栄養・食糧学会誌
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59 巻, 6 号
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  • 中嶋 洋子
    2006 年 59 巻 6 号 p. 297-304
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2009/12/10
    ジャーナル フリー
    成長期の脂肪摂取量の差異が成熟後の脂肪摂取嗜好に及ぼす影響を高脂肪食飼料-1 (HFD-1), 低脂肪食飼料 (LFD) と等カロリーにセルロースで調製した高脂肪食飼料-2 (HFD-2) を用いて調べた。4週齢の Fischer 344系雄ラットを, LFD (LFD群), HFD-1 (HFD-1群), HFD-2 (HFD-2群) で8週間飼育後, LFD群は2群に分けた。LFD群の1群とHFD-1群をI組とし, 残りのLFD群とHFD-2群をII組とし, I組にはLFDとHFD-1を, II組にはLFDとHFD-2を同時に与えて4週間選択摂取させた。実験期間を通していずれの群も等カロリーになるよう飼料を摂取しており, 各群間に体重差はみられなかった。選択摂取期間のHFD摂取割合は, I組のHFD-1群が80%, LFD群が55%, II組のHFD-2群が20%, LFD群が27%であった。したがって (1) HFD-1の嗜好性はHFD-2よりも高い, (2) HFD-1摂取は成長期の脂肪摂取量の差異が成熟後の脂肪摂取嗜好に影響を及ぼす, (3) HFD-2摂取は脂肪の過剰摂取を予防する, と考えられた。
  • 柴田 圭子, 三好 恵子, 渡邉 容子, 安原 安代
    2006 年 59 巻 6 号 p. 305-312
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2009/12/10
    ジャーナル フリー
    大豆の食味とイソフラボン誘導体の挙動について, スチームコンベクションオーブン (SC) によるゆで加熱と蒸し加熱の影響を検討した。本実験では, 日常的なステンレス鍋でのゆで加熱 (鍋加熱), SCによるゆで加熱 (SC-ボイル), SCによる蒸し加熱 (SC-スチーム) を用いた。加熱前の4℃で16時間の浸漬において, イソフラボンは大豆中にほとんど保持されていた。鍋加熱とSC-ボイルではイソフラボンの70%が大豆中に保持され, 30%が煮汁へ浸出するという類似の結果を示したが, SC-スチームでは大豆中に100%近くのイソフラボンが保持されていた。SC-スチームでは官能評価における総合評価の項目で高い評価が得られた。乾物大豆中のイソフラボンの80%以上は4種類のイソフラボン誘導体: 6″-o-malonyl-daidzin, 6″-o-malonylgenistin, daidzin, genistin であった。鍋加熱とスチームコンベクションオーブンによる方法 (SGボイル, SC-スチーム) のいずれにおいても, 加熱によるマロニル化配糖体の脱アシル化配糖体への移行がみられたが, アグリコンの増加はほとんどみられなかった。
  • 菅野 道廣
    2006 年 59 巻 6 号 p. 313-321
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2009/12/10
    ジャーナル フリー
    大豆油は, 大豆食品中ではもっともアレルゲン性が高い食品にリストアップされている。しかし, 食用大豆油の総タンパク質含量は理論的にも, 状況証拠的にもアレルギー反応を引き起こす閾値よりずっと低い。この不一致の背景について考察した。その結果, 原因として考えられる, (1)反応を引き起こす量のアレルゲンが残存している, (2) 反応を促進する量の脂質過酸化物が混在する, (3) 多く含まれるリノール酸が関与する, のいずれの点からも, 大豆油をもっとも危険な大豆食品にランク付ける科学的根拠は見出されなかった。おそらく, 食用油脂精製技術が未熟な時代の情報が, 無条件に引用されてきたためであろうと推測された。大豆油に反応する敏感な大豆アレルギー患者は皆無ではないが, そのような特例を除けば, 少なくとも大豆油は危険きわまりない食品ではなく, タンパク質含量にかなりの違いがあり使用範囲も広い大豆レシチン標品に注意する必要があるように思われる。
  • 平成18年度日本栄養・食糧学会学会賞受賞
    江崎 治
    2006 年 59 巻 6 号 p. 323-329
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2009/12/10
    ジャーナル フリー
    運動は, 肥満や糖尿病を予防する。筋肉のAMP-キナーゼ活性が減弱したマウスの研究から, 筋肉のAMP-キナーゼが, 運動の体脂肪減少効果に必要であることがわかった。AMP-キナーゼは細胞内エネルギー不足を感知し, 糖や脂質の代謝を亢進させる酵素である。一方, 運動を繰り返すと糖輸送体GLUT4量が増加し, 運動をしないとGLUT4量は減少する。GLUT4は糖の筋肉への取り込みに関与するタンパク質で, GLUT4量増加は運動の糖尿病予防効果の主因と考えられる。ミニジーンGLUT4欠失ミュータントのトランスジェニックマウスを用いた研究から, 運動に反応するシスエレメントの存在部位も推定されている。魚の摂取は心筋梗塞を予防する。魚油のSREBP-1c活性化阻害による脂肪合成抑制, PPARα活性化による脂肪燃焼亢進作用が肝臓で認められた。SREBP-1c活性化抑制は絶食時にも認められるが, 魚油は絶食とは異なる機序でSREBP-1c活性化を阻害した。SREBP-1c活性化の阻害が, 心筋梗塞の予防に関与するかどうかは明らかでない。一方, PPARα活性化は, 血中中性脂肪低下剤フィブレートのおもな作用であり, フィブレートにも心筋梗塞予防作用があることから, 魚油の心筋梗塞予防作用は, 一部にはPPARα活性化作用を介していることが推定される。このように運動, 魚の摂取は生体でのエネルギー代謝に大きな影響を与え, 生活習慣病予防機序の一部として働いていると考えられる。これらの機序を明らかにすることは, 運動のできない人の疾病予防薬の開発, テーラーメイドの疾患予防の理論構築のために重要である。
  • 平成18年度日本栄養・食糧学会奨励賞受賞
    亀井 康富
    2006 年 59 巻 6 号 p. 331-335
    発行日: 2006/12/10
    公開日: 2009/12/10
    ジャーナル フリー
    食物由来のビタミンAやDなどの脂溶性ビタミン・脂溶性ホルモン類は, 転写調節因子である核内受容体を介して遺伝子発現調節を行う。近年の研究により, 核内受容体による転写調節には転写調節共役因子 (cofactor) が重要であることが明らかとなった。筆者らはCREB Binding Protein (CBP)が, cAMPシグナル下流のCREBのみならず, 核内受容体の転写調節共役因子としても機能することを見出した。次に, 筆者らは, 人体のエネルギーバランスに重要な組織である骨格筋と脂肪組織における転写調節共役因子の役割を解析した。栄養過多により肥満が生じ, 飢餓により身体の適応現象として例えば筋萎縮が生じる。筆者らはPGC1βという核内受容体転写調節共役因子をクローニングし, オーファン核内受容体ERRを特異的に活性化し肥満を抑制しうることを見出した。また, 転写調節共役因子として知られるFOXO1が栄養条件により骨格筋で発現変動し, 筋量の調節を行うことを遺伝子改変マウスを用いた実験により明らかにした。これらの結果は, 肥満や糖尿病などの生活習慣病の予防や病態の改善を目指した創薬等に応用可能であろう。
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