抄録
うつ病(鬱病または欝病)は気分障害の一種であり,抑うつ気分や不安,焦燥,精神活動の低下,食欲低下,不眠症などを特徴とする精神疾患である。うつ病患者では通法での歯科治療に対しても強いストレスを感じ心身の症状が悪化する危険性がある。著者らは頻繁に胸痛を訴え歯科治療を拒否し,その後に「小児うつ病」と診断された男児(8 歳:初診時)の齲蝕治療を経験した。うつ病の治療経過と共に,患児の身体的心理的症状は改善したが,うつ病への影響を考慮して全身麻酔下での集中歯科治療を実施した。その結果,全身麻酔下での歯科治療後も患児の心身の健康状態に変化はみられなかった。このことから,小児に頻繁に身体愁訴が出現する場合,背景となる心身の病変を疑うこと,さらに小児精神疾患の専門家と連携した歯科的アプローチが肝要であると考えられた。