2025 年 63 巻 1 号 p. 12-19
口腔顔面領域からの侵害情報を処理すると考えられている大脳皮質の一領域である島皮質にはニューロキニン1(NK1)受容体とサブスタンスP(SP)を発現するGABA作動性ニューロンが豊富に存在していることから,SPが島皮質での侵害情報処理に関与していることが示唆される。SPは大脳皮質にてGABAA受容体を介して抑制性シナプス伝達を調節することが明らかとなっているが,興奮性シナプス伝達への修飾作用はいまだ不明である。そこで,蛍光顕微鏡観察下でGABA作動性抑制性ニューロンと興奮性錐体細胞を同定できるVGAT-Venusトランスジェニックラットから島皮質を含む冠状断の急性脳スライス標本を作製し,興奮性錐体細胞からホールセル・パッチクランプ記録を行い,SPがグルタミン酸作動性シナプス伝達をどのように変化させるか,そしてSPによって誘発される興奮性シナプス後電流の抑制にNO合成が関与するか解明することを目的として実験を行った。その結果,SPはGABA作動性ニューロンのシナプス前膜に存在するNK1受容体を活性化し,一酸化窒素(NO)合成経路を活性化することによりNOを産生し,そのNOがグルタミン酸作動性ニューロンの軸索終末から放出されるグルタミン酸の放出確率を減少させることによってSPによって誘発される興奮性シナプス後電流の抑制に寄与すると考えられた。島皮質におけるこのようなメカニズムは口腔領域における疼痛の制御機構に重要な役割を果たしている可能性があることを示している。