小児歯科学雑誌
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自閉症ならびに自閉的傾向児の食生活の実態分析
健常児との比較から
森主 宜延北見 ひろ子福満 和子
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キーワード: 自閉症, 食生活, 栄養
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1990 年 28 巻 1 号 p. 11-25

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抄録

本研究は,自閉症ならびに自閉的傾向児の食生活と健常児の食生活との比較により,自閉症ならびに自閉的傾向児の食生活習慣(主に偏食),栄養学的そして歯科保健学的問題に関する指導の必要性を検討することである.
自閉症ならびに自閉的傾向児の研究対象者は,男児54名,女児8名,合計62名である.
食生活アンケートと食事記録により得られた料から,偏食ならびに嗜好性,栄養(主にエネルギー)の充足率,食形態(硬度),おやつの摂取状況,そして砂糖摂取状況と齲蝕罹患状況との関係について検討した.得られた研究結果は次のようである.
1.嗜好性について,自閉症児が好む食品は魚肉類であり,嫌いな食品は野菜であった.この傾向は健常児と同様であった.自閉症児がおやつで好む食品は,ジュース類と牛乳であった.
2.CLAC IIに基づく自閉症児の偏食に関する評価から,偏食の有無による摂取量エネルギーに有意差が認められた食品群は,牛乳と油脂類であった.また,偏食の有無と固執性間に因果律は成立しなかった.
3.自閉症児と健常児との比較から,栄養(エネルギー)の充足率に有意差を認めなかった.食品群別充足率において,自閉症児は健常児と比較し魚肉類で有意に高く野菜類ならびに乳製品で低値を示した.年齢に基づく野菜の充足率の変化から,自閉症児は健常児と比較し,7歳児で両者の差が大きくなり,自閉症児の充足率は低値を示した.
4.食形態において,自閉症児は健常児と比較し,硬度の高い食品を摂取していた.
5.おやつの摂取点における自閉症児と健常児との比較から,総摂取点ならびに食品群別摂取点は,両者間に有意の差を認めなかった.また,おやつの摂取習慣(摂取回数,摂取時の規則性,摂取量)において,健常児が5歳より摂取習慣が歯科保健学的に良化したのに対して,自閉症児では悪化した.
6.齲蝕罹患状況と砂糖摂取状況との関係は,自閉症児ならびに健常児とも高い相関を示した.しかし,摂取時と含糖食品の形態(飲料とその他)において自閉症児と健常児間に差が認められ,自閉症児は,食事時に含糖飲料を摂取する者が多く,健常児は,含糖飲料を間食時に摂取する者が多かった.
7.自閉症児の食生活は,集団を対象とした場合,栄養学的に偏りが見られるものの,食生活指導の絶対的必要性は認められず,歯科保健学的には好ましい食生活状況を示していた.

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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