2001 年 39 巻 3 号 p. 658-668
生態学において情報は環境の中に存在し,環境の「意味」や「価値」は環境の中で発見されるべきであるとするアフォーダンス理論がその根本となる.そして情報収集の手段である視覚や触覚などを研究することは,ヒトと行動との関連性を理解する一助になると考えられる.そこで歯科診療室に存在する情報の中から,小児が能動的に「意味」や「価値」を探し発見し顕在化させる過程を術者が知り,小児の行動を予測し,取り扱いを円滑にすることを目的に研究を行った.小児が治療椅子に乗降する際の行動を,VTRを用いて分析検討し以下の結論を得た.
1.治療椅子へ乗る際には,3,4歳児では前向きに,5,6 ,7歳児では後ろ向きに乗る傾向を認めた.治療椅子が高くなると,3,4歳児ではステップ側へ回り込む傾向を認めた.治療椅子から降りる際には,年齢に関係なく治療椅子に背を向けて後ろ向きに降りた.
2.治療椅子へ接近するに従い小児の視線は多くが治療椅子へ向かった.
3.治療椅子に対する足の接触は,前向きでは右足から,後ろ向きでは左足からの接触が多かった.
4.治療椅子に対する手の接触は,移動時に手を治療椅子へ触れる小児が3~4割であった.
以上より,小児患者は治療椅子へ乗るとき,年齢に応じて自分に適した行動を選択していることがわかった.その際,認知のための情報収集における手段としては,視覚のみならず触覚もその役割を果たしていることが示唆された.