抄録
高等植物の葉緑体とシアノバクテリアの膜脂質組成は、いずれもその約50%を糖脂質モノガラクトシルジアシルグリセロール(MGDG)が占めるが、その合成経路は両者で異なっている。高等植物では、MGDG合成酵素がジアシルグリセロール(DAG)とUDP-ガラクトースを基質として糖転移反応を行い、MGDGを合成する。一方、シアノバクテリアではモノグルコシルジアシルグリセロール(MGlcDG)合成酵素がDAGとUDP-グルコースを基質としてMGlcDGを合成し、その後グルコースからガラクトースへの異性化反応によりMGDGが生成される。
高等植物とシアノバクテリアの進化的中間に位置する緑藻クラミドモナスでは、我々がゲノムサーチを行ったところ、高等植物型MGDG合成酵素とシアノバクテリア型MGlcDG合成酵素の両方のホモログを持つ事が分かった。さらにどちらのホモログ遺伝子も転写レベルで発現している事が確認された為、クラミドモナスのMGDG合成経路が高等植物型かシアノバクテリア型かを調べるために、クラミドモナスの分画物を用いてUDP-ガラクトース/グルコースを基質としたMGDG合成活性を測定した。その結果、クラミドモナスの膜画分でのMGDG合成は高等植物型経路である事が明らかとなった。今回の発表ではクラミドモナスMGDG合成酵素遺伝子のクローニング及びさらに詳細な酵素学的解析の結果についても報告をする。