抄録
糖は、エネルギー源・炭素骨格源であると同時に、植物の発生・成長を多面的に制御するシグナル因子としても機能する。我々はFOX(full length cDNA over-expressor) Hunting Systemを用いて、シロイヌナズナのgain-of-function型糖耐性変異体の単離と糖応答に関わる具体的な分子ネットワークの解明を試みた。糖変異体の単離方法として、糖応答に対する窒素の影響と浸透圧ストレスを考慮した高糖濃度/低窒素濃度(300 mM Glc./0.1 mM N)培地でのスクリーニングを実施した。その結果、過剰な糖による生育阻害に対して耐性を示す変異体ssv1 (super survival 1) の単離に成功した。野生株が通常成長不能となり枯死するのに対し、この変異体では、子葉が緑色化し、本葉の展開も観察された。また、過剰な糖応答時に野生株で観察される光合成関連遺伝子やアントシアニン合成系遺伝子の発現変動が、この培地で生育させたssv1 では観察されなかった。この変異体の原因遺伝子SSV1は、RING finger motifをもつユビキチンリガーゼ(E3)をコードしていたことから、糖のシグナル伝達経路にはユビキチンカスケード/26Sプロテアソームシステムが関与することが示唆された。また、in vitroにおけるSSV1のユビキチンリガーゼ活性の検出も試みており、 ssv1変異体の諸性質をあわせてこれらについて議論したい。