抄録
シアノバクテリアにおける光合成の環境応答には光化学系I反応中心をコードするpsaABの転写調節が重要であることがすでにマイクロアレイなどの様々な研究によって示されている。われわれはSynechocystis sp. PCC 6803 において,slr0846遺伝子破壊株ではpsaAB遺伝子の発現が低下し,光化学系Iの含量が低下することを前回の植物生理学会で報告した。Slr0846は大腸菌のレドクス応答型転写因子IscRと相同性をもつが,IscRと異なり鉄硫黄クラスター形成に必要なシステインを持たない。本研究では転写因子Slr0846とpsaAB遺伝子にある異なる転写開始点の関係をプライマー伸長法により調べた。その結果slr0846遺伝子破壊株ではpsaAB転写産物量が転写開始点にかかわらず野生株よりも減少すること,逆に過剰発現株では転写開始点にかかわらず増加することが示された。転写産物の分解には野生株と顕著な差がないため,Slr0846がpsaAB転写産物の合成に機能すること,その調節は転写開始点に依存していないことが示唆された。さらにslr0846遺伝子破壊株より単離した,光化学系Iの減少が回復した疑似復帰変異体の解析結果についてもあわせて報告する。