社会学評論
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特集・「見る」ことと「聞く」ことと「調べる」こと
録音素材から調べ構築するリアリティの重層性
インタビューのエスノグラフィーを実践する
古賀 正義
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2009 年 60 巻 1 号 p. 90-108

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抄録

従来インタビュー調査は,構造化された質問によって「本音」を引き出す作業と理解されやすかった.しかし,近年の構築主義的調査観では,インタビューは聞き手と語り手の共同行為であり,「語りうるもの」をめぐるネゴシエーションの政治力学的な産物であるとされる.
ICレコーダーなどの利用による音声データの再現可能性の向上は,「出来事」としてのインタビュー実践をきめ細やかに理解することを可能にしている.これに伴って,筋書きを用意した物語型の聞取りから,「声」と「音」(ここでは,互いの発話行為と収集される状況内の音声要素)を,インタビュー状況に沿って収集するデータベース型の分析が必要とされる.「インタビューのエスノグラフィー」が求められるのは,そのためである.
データの内在的分析は,「ストーリー」が制作される聞き手と語り手の多元的な関係性に注目させ,他方,1つの立場から回答者の「声」を読み込む問題性を指摘する.調査者に解釈される「物語世界」を重層的に構築するには,インタビューにおける「声」の濃密さと「音」の収集との相互連関を理解し,回答者の多声性を読み解くスパイラルな実践を試みる必要がある.
進路多様校卒業生の聞取り調査から,「声」と「音」を丁寧に読み込むことで,ステレオタイプな卒業生イメージが溶解し彼らの生活世界と接合していく局面を提示して,インタビューデータの飽和的で重層的な理解の必要性を強調する.

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© 2009 日本社会学会
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