社会学評論
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73 巻, 1 号
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投稿論文
  • 森山 至貴
    2022 年 73 巻 1 号 p. 2-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    2021年現在,男性中心社会における男同士の内輪のルールや雰囲気などに批判的に言及するために,アカデミズムの内外において「ホモソーシャル」という概念が多く用いられている.しかしその用法は,しばしばこの概念の出自として言及されるE. K. セジウィックの用法とは異なるようにもみえる.このような状況をさしてホモソーシャル概念の「乱用」と言われたりもする.

    本稿では,ホモソーシャルという語の「乱用」に思える多義性を,削ぎ落とすのではなく適切に制御することでこの語をよりよく使うことができると主張し,そのための指針を提示することをめざす.具体的には,セジウィックを中心に,他の論者によるものも含めたこの語の用法の検討を通じて,セジウィックのホモソーシャル概念がその多義性ゆえに説明力をもったこと,したがって,概念の厳密化はむしろ望ましくないことを示す.その上で,セジウィック以後のホモソーシャルの用法を検討することで,セジウィックのホモソーシャル概念を自身の記述の文脈に応じて再形成することが有用である,と主張する.

  • ―演劇制作場面の相互行為における視覚の社会性―
    鈴木 南音
    2022 年 73 巻 1 号 p. 19-36
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究は,描かれた絵の見え方を形作るための相互行為上のプラクティスを,会話分析の方法を用いて解明したものである.その調査先として,舞台芸術の制作場面を選んだ.そこでは,これから作ろうとしている舞台美術や,舞台上に投影するアニメーションに関するアイデアを,絵に描いて見せるという活動が頻繁になされており,描かれた絵をどのように見るのか,また,どのように絵の見方を聞き手に示すのかということが,参与者たちにとって重要な課題であった.そこで本研究では,分析の焦点を,描かれた対象同士の関係性の見え方が活動の中でどのように形作られているのかという点に絞り,E. Schegloff(1980=2018)の「予備のための予備」の議論を導きの糸としながら,分析を行なった.

    分析の結果として,相互行為参与者たちが,発話・身体・道具の配置等の組み合わせのなかで描くことを予示し,継続する行為を予備的行為として構造化することによって,描かれた対象同士の見え方が,予備/本題という関係性をもつものとして形作られるということが解明された.また,そのようなプラクティスが用いられることで,絵が,前景や後景といった前後関係をもつ複数の層に階層化されることを示し,さらに,絵の見え方だけではなく,舞台芸術の作り手たちがこれから実際に舞台を組み立てる順序が構造化されるということが明らかになった.

  • ―HTLV-1 関連疾患当事者の〈治験の語り〉から―
    桑畑 洋一郎
    2022 年 73 巻 1 号 p. 37-54
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    近年,医学研究・臨床研究への患者・市民参画が進められ,病いの当事者が臨床試験に主体的に参画することが求められている.一方本稿で注目するHTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type 1)関連疾患も含めた病いの当事者は,こうした動きの前より,臨床試験に対して特有の意味を付与し活動を展開してきた.病いの当事者が臨床試験に対して構成する特有の意味世界を理解することも,現状において重要な意義をもつ.そこで本稿では,HTLV-1関連疾患当事者の病いの語りのうち〈治験の語り〉に注目し,当事者の意味世界とその背景を分析し考察することとする.

    結果,HTLV-1 関連疾患当事者にとって治験とは,〈治癒/回復の頼みの綱〉〈存在可視化のツール〉〈連帯拡大のツール〉〈次世代との連帯の証〉であること,またこれに関連して,治験をめぐる〈参加の可否をめぐる葛藤〉〈連帯をめぐる葛藤〉があることが析出された.さらにこうした,治験を連帯と結びつける語りは,HTLV-1 関連疾患の病いの特性と関連した特有の背景から導き出されていることが明らかとなった.

    臨床試験を実施する側とは異なる仕方で構成された当事者の意味世界を理解することは,臨床試験における関係主体間の相互理解を進展させる上で重要な意味をもつ.〈治験の語り〉は,そのための手掛かりとなるものであろう.

第20 回日本社会学会奨励賞【著書の部】受賞者「自著を語る」
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