2026 年 41 巻 1 号 p. 32-38
日本の中小企業は,企業数の99.7%,雇用の約7割を占めており,日本経済の屋台骨を支えている。しかし大企業に比べ,システム化や文書化が遅れており,知識が経営者や一部の熟練従業員に集中している。さらに,知識を広めるための専門部署や研修制度も十分でないため,知の継承が現場体験に偏る課題を抱え,労働生産性が低い。
本稿では,知の継承とデジタルトランスフォーメーション(DX)を企業の存続と成長に不可欠と捉え,タイル製造業を営んでいる中小企業の取り組みを紹介する。具体的には,①伝統的な窯業技術を新規事業の中で継続的に活用して発展へつなげる活動,②工場内の職人が持っている技能をデジタル化する試み,③勘や経験頼みのアナログ的な組織文化から脱却して,デジタル化に対応した新しい組織文化を醸成する活動,の3点を取り上げる。
不確実な経営環境において,中小企業にとっての知の継承とDXは,単なるノウハウの保存ではなく,労働生産性を高め,企業が生き残るための価値創造を促す戦略である。事例を通じて,具体的な知の継承とDXの実現方法と課題について述べる。