抄録
MRIの出現により診断の困難であった脳幹の微小梗塞巣が描出できるようになった.我々はMRIにより確認された両側上部延髄内側梗塞の一例を報告した.症例は63歳男性で, めまい, 嘔気で発症し, 四肢麻痺, 呼吸不全, 深部知覚障害を呈したが, 14病日で人工呼吸器より離脱し, 30病日には上肢の屈曲が可能になり, 60病日には杖歩行が可能となった.脳MRIで両側上部延髄腹内側に小梗塞を確認した.MR angiographyと脳血管撮影では脳底動脈下半部の動脈硬化性狭窄および右椎骨動脈低形成と合流部の高度狭窄を認めた.本例においては, 脳底動脈および右椎骨動脈の狭窄のため, 梗塞巣付近は左椎骨動脈からの穿通枝優位に栄養されていた可能性があり, 両側梗塞の起こりやすい素地にあったと推定される.両側延髄梗塞の報告は多くが予後不良であり剖検により確認されているが, 本例は機能予後良好で, MRIとMRAで責任病巣を確認し得た貴重な症例と考えられた.