2019 年 28 巻 1 号 p. 63-66
人工血管の露出に対しては,新たな経路での血行再建か,露出血管を温存し創閉鎖を行うかの選択を迫られる.今回,前胸部に露出した人工血管を大胸筋弁で被覆し,創閉鎖した1例を経験したため報告する.症例は69歳女性,急性上行大動脈解離に対し,緊急で上行・弓部大動脈人工血管部分置換術,待機的に胸部大動脈ステントグラフト内挿術,右鎖骨下–左鎖骨下動脈交叉バイパス術,左鎖骨下動脈塞栓術が施行された.術後に人工血管の露出を認めた.皮膚欠損があり単純縫縮は困難であったため,創閉鎖に際しては大胸筋弁と植皮を用いた.術後半年の経過で感染兆候や再露出は認めていない.露出人工血管に対しては,一定の条件下においては温存も可能と報告されている.前胸部の人工血管露出に対し,有茎大胸筋弁による被覆は有用な手法の一つと考えられた.