2021 年 30 巻 5 号 p. 299-302
症例は79歳女性.2020年2月路上で転倒し,右手の冷感痺れを訴えて近医搬送された.右上腕骨近位部骨折と,造影CTによる右腋窩動脈閉塞の診断で受傷3日目に当院に転院搬送された.受傷6日目に上腕骨の観血的整復固定術と右腋窩動脈の血行再建手術を施行した.術中所見では,腋窩動脈は内腔の血栓閉塞の他に,外膜の損傷を伴っていたが損傷部周囲に多量血腫はなかった.外膜損傷した動脈の中枢側末梢側を結紮し,自家大伏在静脈グラフトで腋窩動脈–上腕動脈間バイパス術を行った.上腕骨近位部骨折に伴う動脈損傷の報告には,動脈の内膜損傷に伴う血栓閉塞と,骨片による外膜損傷で起きる出血,仮性動脈瘤形成の二種類があるが,本症例では内膜損傷と外膜損傷が併存しており内膜損傷による血栓閉塞が先行しその後異時性に外膜損傷を来したものと思われた.