2023 年 32 巻 1 号 p. 19-23
異物誤飲により小腸粘膜を損傷し,菌血症の原因となって感染性大動脈瘤に至った報告は稀である.症例は60歳代喫煙家女性で2週間前から腰痛,発熱と炎症反応の上昇を認めたため当院を紹介された.造影CTで小腸内に誤飲義歯を認めたが腸管穿孔や腹膜炎を示唆する所見はなく,胸腹部大動脈に最大短径66 mmの仮性瘤を認めた.破裂リスクが極めて高いと判断し,人工心肺下胸腹部大動脈置換術を施行した.瘤周囲に多量の膿を認めたため,可能な限り郭清した.回復期に義歯の除去手術を予定していたが,術後8日目に腹膜炎を発症した.義歯による空腸穿孔の診断で空腸切除術を施行したが,最終的に多臓器不全により術後90日目に永眠された.血液培養と瘤周囲の膿からStreptococcus intermediusを検出した.義歯誤飲による消化管損傷が原因と考えられた感染性大動脈瘤という稀な症例を経験したため報告する.