抄録
【目的】
廃用症候群は診療報酬制度による診断名として取り扱われているが、その基準は曖昧である。例えば、脳卒中後の患者では麻痺側下肢だけでなく非麻痺側下肢にも筋力低下がしばしば見られるが、患者の発症前の状態を把握することは困難であり、その筋力低下が「廃用」によるものかどうか、また、その程度を判断することは難しい。そこで、「廃用性筋萎縮」の客観的な評価尺度として、安静臥床で廃用を起こしやすい抗重力筋のある大腿と下腿の周径を用いた簡便な方法を考案した。その方法とは_丸1_一般的な周径と_丸2_緊縛した周径との差を_丸1_で除した値(萎縮率)を用いるものである。今回、萎縮率を健常者と廃用症候群と診断された患者において比較し、その有用性の検討を行った。
【対象と方法】
対象は廃用症候群と診断された、回復期リハビリテーション病棟入院後1ヶ月以内で著明な浮腫の無い患者8名(平均72.4±12.6歳、脳卒中7名、呼吸器疾患1名、男6名)と健常者10名(平均26.3±3.7歳、男7名)とした。メジャーを用いて、左右の大腿の膝蓋骨上縁上15_cm_と下腿最大部の周径を測定して萎縮率を算出し、それぞれについて比較・検討した。統計学的分析にはF検定、t検定を行い、有意水準を5%未満とした。なお本研究は当院倫理委員会にて承認されており、対象者の了解を得て実施した。
【結果】
萎縮率の平均値は健常者の大腿で右0.115±0.009、左0.114±0.011、下腿で右0.093±0.012、左0.096±0.011であった。患者の大腿では右0.136±0.015、左0.136±0.017、下腿で右0.104±0.024、左0.102±0.015であった。膝蓋骨上縁上15_cm_における患者と健常者の萎縮率の間には有意な差が認められた(p<0.05)。しかし、下腿最大部においては患者・健常者間に有意な差が認められなかった。片麻痺患者5名では麻痺側の平均0.137±0.012、非麻痺側の平均0.130±0.019であった。
【考察】
大腿部の周径では健常者と患者との間で有意な差がみられ、且つ、脳卒中患者では麻痺側と非麻痺側との間に特徴的な差が確認されなかったことから、萎縮率は廃用による特徴を表しているのではないかと考えられる。一方、下腿においては、健常者と患者との間に有意差がみられなかったことから本法の有用性は示されなかった。下腿は大腿に比べて筋、脂肪ともにその量が少なく、萎縮率の程度に明確な差がつき難かったためと考えられる。今後は対象者数を増やし、廃用性筋萎縮の程度を具体的に数値化できるよう検討を重ねる必要がある。