主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 42
【はじめに、目的】
近年, 疼痛に対する理学療法は疼痛患者を「一人の個」として捉え, 機能評価に加えて情動面, 認知面, 社会面といった多面性を考慮した包括的アプローチが主体となっている. 今回担当した右膝蓋骨骨折患者は, 病棟ADL は自立レベルだが右大腿部~膝窩部の疼痛が主訴であった. さらに, 疼痛に加えて, 不安・抑うつや運動恐怖の傾向が強く恐怖回避モデルの悪循環に陥りやすいことが推察され, 疼痛に対する間違った知識や考えなどを是正し, 活動性を向上させる必要があると仮説立てた. そのため, 従来の運動療法に加えて, 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy 以下CBT) を含めた多面的アプローチを行い, 疼痛軽減に至ったため報告する.
【症例紹介】
年齢/ 性別:60 代/ 男性. 診断名: 右膝蓋骨骨折. 既往歴: うつ病. 現病歴:2020年4 月中旬に庭の剪定中に約2m の高さから転落し受傷,CT にて転移を認めなかったためニーブレース装着で保存的加療となった. 第1 病日より理学療法介入,4 週間ニーブレース装着で全荷重可能となった. 社会的背景: 高齢の母と2人暮らし,1 年前に教員を退職. 入院前生活:ADL 自立で畑仕事を行っていた. 活動度: 独歩で院内フリー.Hope: 草刈りができるようになりたい.
【初期評価】
(第26 病日〜第30 病日)膝関節ROM, 膝伸展筋力, 疼痛の強度はNumerical Rating Scale( 以下NRS),疼痛の性質はrevised version of the SF-MPQ( 以下SF-MPQ-2), 情動・認知面では破局的思考はPain Catastrophizing Scale( 以下PCS), 不安と抑うつはHospital Anxiety and Depression Scale( 以下HADS), 運動恐怖はTampa Scalefor Kinesiophobia( 以下TSK) を行った. 膝関節ROM( 屈曲/ 伸展):95/-5° , 膝伸展筋力( 右/ 左):18.2/26.7kgf, NRS:10/10, SF-MPQ-2:28/200 点,PCS:21/52 点( 反芻6, 無力感11, 拡大視4), HADS:23/42 点( 不安10/ 抑うつ13), TSK:41/68 点. 情動・認知面でPCS のみカットオフ値を下回るもHADSやTSK でカットオフ値を上回っており, 不安・抑うつや運動恐怖といった心理的問題が発生していた.
【介入方法】
(第31 病日〜第46 病日)(1)運動療法: 歩行練習, 筋力強化練習.(2)物理療法:L3-4 領域にTENS( 周波数:100Hz, パルス幅:0.1~0.5 μ s, 強度:感覚閾値), ホットパックを20 分併用.(3) CBT: 患者教育( スライドを使用して説明), 目標設定( 草刈りができるようになりたい), ペーシング( 身体活動量計: ライフレコーダGS を使用してモニタリング実施), フィードバック(1 週間後に目標の再設定)
【最終評価】
(第47 病日〜第49 病日)膝関節ROM( 屈曲/ 伸展):145/-5 ° , 膝伸展筋力( 右/ 左):20.3/28.8kgf,NRS:1~2/10, SF-MPQ-2:7/200 点,PCS:0/52 点( 反芻0, 無力感0, 拡大視0),HADS:7/42 点( 不安3/ 抑うつ4), TSK:33/68 点. 情動・認知面でいずれもカットオフ値を下回り, 不安・抑うつや運動恐怖の改善を認めた.
【考察】
Monticore らは「CBT と運動療法を組み合わせたアプローチは, 痛みの強さ,運動に対する恐怖心, 主観的健康観, 身体機能の改善を認め,1 年後も維持されていた」と報告している. 今回, 運動療法とCBT の複合療法により, 身体機能の改善に加え, 心理社会的背景まで含めた包括的マネジメントに基づいた指導ができた. これらの多面性を考慮した包括的アプローチは疼痛の認知過程の変容に繋がり, 疼痛軽減に奏功したと考える. さらに, 本症例は退院後に草刈りができるようになっており, 痛みのセルフコントロールが可能となっている.
【倫理的配慮,説明と同意】
対象にはヘルシンキ宣言に基づき, 本報告の主旨を口頭および文書にて十分に説明し, 同意を得た.