主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2021 from SASEBO,長崎
回次: 1
開催地: 長崎
開催日: 2021/10/16 - 2021/10/17
p. 41
【はじめに】
古関らによると「頸髄損傷不全麻痺患者は損傷部高位のみの情報では獲得可能動作の予後予測は困難」と述べている。1) 回復期病院においてはリハビリテーション(以下リハビリ)計画を立案する際、自宅退院が可能か否かという判断は重要なポイントである。今回、担当した頚髄損傷不全麻痺患者の自宅退院に向けて入院期間中に段階的な患者・家族教育を行った結果、介護技術の向上や環境設定、在宅生活に向けた退院支援を経験した。指導内容は障害理解期、介助量軽減期、介護準備期、介護実践期の4 段階に分け行った。その経験を以下に報告する。
【症例提示、経過】
60 代男性。診断名はC3、C6 頸髄損傷。発症後4 週目より当院転院。入院前ADL は自立レベルで妻と2 人暮らし。入院時のJapan Coma Scale( 以下JCS): II -20、改良Frankel 分類:B2、American Spinal Injury Association( 以下ASIA):B、MMT: 左右 肩屈曲2 肩伸展、肘屈曲伸展、股屈曲伸展、膝屈曲伸展1、起立性低血圧あり、経鼻経管栄養、バルーンカテーテル挿入、ADL 全介助レベル、FunctionalIndependence Measure 運動項目( 以下FIM):13 点。入院4 週目では意識障害が残存しており、起立性低血圧の影響から離床時間は約10 分であった。積極的なリハビリが困難で、妻に対してリハビリの現状説明を行った。入院6週目から意識障害の改善が見られ日常的コミュニケーションが可能となった。連続離床時間は約20 分可能。コロナ禍にあるため対面のコミュニケーションが取れない中、携帯電話を使用し本人、妻、担当療法士の3 人で直接連絡を取り合う機会を設定した。本人・妻の共通目標を自宅復帰と設定し、移乗動作が今後の課題となった。入院20 週目では経鼻経管栄養やバルーンカテーテルから離脱できた。起立性低血圧の改善が見られ連続離床時間が約2 時間可能となった。食事の経口摂取やトイレ動作などのADL 訓練を中心にリハビリを実施した。妻に対して担当療法士が撮影した介助動画を用いて介助指導を行った。入院22 週目から自宅復帰に向け週に1 回の頻度で院内での介助指導の機会を設けた。入院26 週目のFrankel 分類:C1、ASIA:C、FIM 運動項目は17点、移乗動作は2 点へ向上し、自宅退院となった。
【考察】
長期的な回復が予想される頸髄損傷不全麻痺患者は変化に応じた継続的な支援が必要である。入院から6 週にかけて病態が変動しやすく、予後予測が困難であった時期を障害理解期とした。定期的な身体機能評価や家族と連絡を取ることで、状態に応じたリハビリ計画の設定が可能となった。また、本人・家族の心情のサポートを行い、在宅介護における問題点抽出や共通の目標設定が可能となった。この時期に問題点を細分化し、本人・家族と目標を共有することが障害受容に対する理解の一助となったと考える。入院6 週から20 週を介助量軽減期として介助量軽減を目的とした機能訓練を中心に実施した。入院20 週からは介護準備期として、自宅復帰に向けてADL 訓練中心に行った。妻に対しては介助動画を観てもらうことで簡易的かつ専門的に介護方法を学習し、介護イメージの構築に繋がったと考える。入院から22 週からは介護実践期として自宅環境を想定した実際場面での介護を行うことで直接、本人・妻に対して効率良く介護学習が行えた。また、短期間で頻回に介護指導を設定することで介護能力を向上し、福祉用具やサービス内容の再調整が可能となった。段階的に患者・家族と関わることで、たとえ障害が残っても安心して在宅生活を迎えることができ、継続的な家族支援に繋がっていくと考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
本症例報告は、症例に対して口頭・書面にて同意を得ている。