2020 年 40 巻 2 号 p. 42-52
小売業にオムニチャネルという言葉が登場して10年近くが経ち,その間小売業がインターネットやモバイルデバイス上のアプリなどを介してマーケティングを行うことは一般的なものとなった。しかし,デバイスや通信方法がいかに進化しようとも,自社が管理もしくはアプローチ可能なチャネルを介して顧客とやり取りをするという基本は変わらない。本論では,オムニチャネル環境下において,アプリ利用などのエンゲージメント行動の理解促進を目的とし,マルチチャネル研究の知見を応用することで,小売業の評価や既存の顧客指標との関連を探索した。その結果,ショールーミングなどの経験がオムニチャネル戦略を行う企業の評価を高めること,エンゲージメント行動はRFMなどの既存指標と強く相関をするが,売上増の要因となるのは来店頻度がより高まることにあること,複数のコミュニケーションチャネルを利用することで,来店に相乗効果が生まれることなどを示した。また自社保有チャネル外の分析例からは,小売業のアプリ利用の前後に,ポイント獲得が主目的と考えられる他社アプリを集中的に使うセグメントの存在などを示し,エンゲージメント行動を行う顧客の多角的な理解を進めた。